いつもならお兄ちゃんと一緒に帰れるのは嬉しいのに。
差し出された手を取れなかった。
霧生くんの鉢植えに水をやらなきゃいけないから？
霧生くんの目の前で手を取って、変な誤解をされたくないから？
でも、今までだったら、そんなのどうでも良かったのに。
この感情。
何だろう？
お兄ちゃんの時とは違う。
切なさにも似た、ドキドキとは違うキュンとしめつけるような。
チクッとした痛みが刺すような初めての感情。
エレベーターが開くと、うつむきながら足早に乗り込んだ。
霧生くんと目が合わせられなくて。
急いで１階のボタンを押した。
「じゃあ、すみません。」
ペコリとお兄ちゃんが頭を下げるとエレベーターに乗り込んだ。
「こちらこそ、助かりました。」
ペコリと霧生くんも頭を下げた。
２人きりのエレベーターの中。
空気が重たく感じるのはあたしだけ？
エレベーターの回数ボタンの前から動けない。
