シャクジの森で〜青龍の涙〜

この旅はアニスの国の近くを通るらしく、時期を見て途中で降りて歩いて帰るのだそう。

少しの間好きな猫のことを楽しく話していると、売り場の空気が少し変わった気がした。


何だか、ピリピリと肌を刺すような―――?

気のせいかしら?とエミリーが不思議に思っていると、アニスのにこにこした笑顔が、すー・・と消えて、膝を折って頭を下げたままの姿勢になっていた。



「アニスさん、急に・・・きゃっ」



突然に伸びてきた腕に腰をぐいっと引き寄せられ、背中が、ぽすん・・と当たったのを感じるのと同時に、少し低めの声が上から降ってきた。



「・・エミリー、何を話しておる」

「ぁ―――アラン様。猫のことをお話していたんです。・・・うちあわせは、終わったのですか?」



先程終わったところだ。

そう返事をする表情はいつもと変わらないけれど、何だかちょっぴり不機嫌そうに思えた。



―――気のせいかしら・・・?



「―――彼に、話はできたか?」

「はい。お話できました。けれど、よく分かってくれてないみたいなの。でも、アラン様?とても嬉しいことがあったんです。リードさんが、シャルルと、仲良しさんになってくれたんです」



すごいでしょう?と、言いながらリードの方へ視線を移すと、今までいた筈のところに姿がない。

何処に行ったのかしらと探せば、随分離れたところに立っているのが見えた。

相変わらずに抱き方が、変。



「あんなところにいるわ。呼んで来ないと・・・」

「ふむ。エミリー、気にせずとも、あれは、あのまま任せれば良いぞ―――そなた・・頭を上げよ」

「はい。失礼致します」



声を掛けられたアニスは緊張した面持ちでゆっくり顔を上げた。



「馬車に、猫が乗る。そなたが面倒を見よ」

「はい。仰せのままに致します」



アランは、再びリードの方へ目を向けた。

すると、今度はぷにぷに攻撃を受けている姿が瞳に映る。

エミリーは、あれを“仲良しさん”と表現したが、爪を立てられないまでも、シャルルは少しばかり機嫌を損ねているようにアランには思えた。

あれでも離さないリードに、僅かに感心も覚える。



「ふむ・・それから―――彼に接し方を指導せよ」

「はい。畏まりました」



―――下れ。

そう言ってアランはアニスをリードの元に向かわせ、エミリーに向き直った。

今までに出していたピリピリとした気は消え去り、いつもの優しい声になる。



「エミリー、買い物はしたか?」

「まだ、していないの。メイとリードさんを探すのに手間取ってしまってて」

「そうか。あまり時間はないが、今より買い物だな・・・ん?その手に持ってるのは、何だ?」

「ぁ、これは―――リードさんの・・・」