シャクジの森で〜青龍の涙〜

「はい?・・・かのじょ、ですか?リードさん、ずっと一人だったわ。だれのことですか?」

「それは真面目ですかっ、ああぁぁ・・しまった!」



つい夢中に。

そう言いながらガバッと立ちあがったところに、シリウスが落ち着いた声を出した。



「リード殿、騒がないよう願います。お探しのお方はすぐそこに居られます」



そう言って棚の向こうを指し示す。

そちらは、へんてこオブジェのある棚の方だ。

リードは焦った顔そのままに、無言で足早にそちらへ向かっていく。



「あ、待って・・・リードさん」



シャルルを抱いたままだし、フランクへのお土産もエミリーが持ったままだ。

追いかけるようにしてついていけば、そこには―――



「貴女はっ。勝手にふらふらしないで下さい」

「だって、仕方ないのですわ。あまりにあなたが動かないんですもの。つまらないから、近場をひと廻りしていたのです―――あら?それは・・・。ぬいぐるみかと思えば―――王子妃様の猫ちゃんじゃありませんか。どうしてあなたが抱いているのですか?」



叱るリードに対し、落ち着いた感じで話しているのは、桃色ベージュの女の子だ。

どうして、ここにいるのだろうか。



「あぁ・・これは。ちょっとした間違いで―――イテテテ・・・」



間違い、といったところで、再び、シャルルの肉球を頬にぐりぐりと受けるリード。

その様子を見た女の子は、さも面白そうにコロコロと笑った。



「まあ、可笑しい。やんわり攻撃されているわ。間違いではないのでしょう?ほら、おいで。猫ちゃん」



桃色ベージュの子は、リードの手の中からシャルルを奪った。

脚もしっぽもぶらぶらフラフラと動く環境からようやく解放され、安定した腕の中に収まったシャルルはとっても御機嫌になったよう、ごろごろと喉を鳴らしている。



「―――こんにちは。再びお会いすることができて、うれしく思います」

「っ、これは、王子妃様。大変失礼致しました」



エミリーが声をかけると、女の子はシャルルを慌ててリードに返し、丁寧に膝を折った。



「いいのです。あなたには、もう一度お会いしたいと思っていました。お身体の具合は、もういいのですか?」

「はい、お陰様で順調に回復致しました。皆様には、言葉では言い尽くせないほどに、深い感謝の念を抱いておりますわ」



女の子はそう言い終わると、今度は深深と頭を下げた。

そして“アニス・スヴェン”と名乗り、国に帰るためにこの旅に同行していて、リードと同じ馬車に乗っているのだと話した。