シャクジの森で〜青龍の涙〜

それはそうだろう。

リードには“ペットが人と同じ馬車に乗る”ということは、想像も出来ないことなのだから。



「えっと、旅の間、シャルルと一緒の馬車に乗って欲しいんです」

「・・・荷車にですか?」

「ううん、違うわ」



全く話がかみ合わくなくて、困るエミリー。

その時―――


「ぁ、シャルル・・・?」



突然、か細い腕の中からすり抜けたシャルルが、リードの方へひらりと飛んでいった。



「ニャー」

「あ?わあぁっ?」


―――どしん。


「――痛っっ」



しなやかに飛び来る小さな体を、あわあわと腕を振り回しながらも咄嗟に受け取ったリードは、勢い余ってしりもちをついてしまった。

シャルルの脇の下あたりを両手で持って、呆然・・といった感じで固まっている。

しりもちをついて痛い思いをしてもシャルルを放さないあたりは、流石リードと言うのか、なんというか・・・。


床にゴロゴロと転がっていたお土産の四角い石を拾って、エミリーはリードの傍に座った。



「おどかしてしまってごめんなさい。こら、シャルル。いきなり飛び付いてはダメでしょう?」



エミリーに窘められたシャルルは、ニャーといって返事のようなものをし、今は肉球でリードの青白い頬をぷにぷにと押している。



「イテテ・・な、何なんですか、これはっ」

「あ・・・リードさん、だいじょうぶですか?でも―――」



―――なんだか、シャルルに気に入られたみたい?



沈んでいたエミリーの心が浮上して、笑みが零れる。

肉球がぐりぐりぐりぐりと押しているのに、リードはシャルルを放す気配がないのだ。

それがとっても可笑しいし、ありがたく思う。


うふふと笑いながら指先でシャルルの手を退かし、リードの頬をそっと撫でる。



「よかったわ。爪は立ててないみたい・・・」



エミリーのふわりとした気が体を包み、おまけに触れられたところが妙に熱くなってしまい、リードの体は、ピキ・・と固まってしまった。

今やもう、カチンコチンだ。

そこに、シリウスがスススと寄って行く。

その、殺気を含んだ気を感じ取り、リードの体は、ビクンと大きく揺れた。

が、それでもシャルルはしっかりと掴んだままだ。



「~~~ち、近付き過ぎでっ~~~ったく、貴女というお方は―――・・っというか」



短時間の間に赤くなったり青くなったりと忙しいリード。

その表情が急に変貌し、キリッと背筋を伸ばしてキョロキョロと辺りを見回し始めた。



「彼女は、どこにっ!?」