シャクジの森で〜青龍の涙〜

呼び掛けてはみたものの、リードは気付く気配がない。

下を向いて何やらぶつぶつ呟いている声が、エミリーのところまで聞こえてくる。

どうやら、お土産を選ぶのに夢中になっているよう。


エミリーはシャルルを腕に抱いて、ゆっくり近づいていった。

この売り場にも、いろんな四角グッズが並べられている。

置かれている物は、メイのいる飾り物中心の所に比べればペンなどの実用的なものが多く、シンプルでとてもセンスがいい感じだ。

へんてこオブジェも、それなりに味があって良いのだけれど。


リードは、う~ん・・と唸りながら、真四角の塊を両手に持って見比べていた。

左右で色と大きさが違うけれど、あれは、何なのだろうか。



「・・・こんにちは。リードさん。それは、なんですか?」



そう訊ねれば、彼は手の中を見たまま呟くように話す。



「見て分かりませんか。これは、ペーパーウェイトです」

「ペーパーウェイト?」

「知らないんですか。貴女は意外に無知ですね。紙が飛ばないよう押さえる道具ですよ。フランクさんにお土産にするんですが・・・」



そう言って、また「う~ん・・」と唸り始めた。

アランから事前に教えられていた通りフランクはお留守番だけれど、リードだけが同行になったよう。



―――そうしたら、同行医官は誰なのかしら?


エミリーはちょっぴり首をひねった。

リードはフランクの専属助手。

二人が離れるなんて、かなり珍しいことのように思えるのだ。

リードを上手く操縦できるのはフランク医官だけって、お城の中ではもっぱらの評判なのだから。



「ぁ、えっと、そうね・・・フランクさんなら、あの緑色がいいとおもうわ。いつも緑色のペンを使っているもの。お揃いになって、きっとすてきだわ」



エミリーは、平台の上にある深緑色のものを指差した。

天然石で作られているようで、光りに当たった部分がちょっぴり光って見えてとても奇麗だ。



「あぁそうですね、確かに。―――で、貴女は何も買わないのですか?」



リードはエミリーの方を見ないままに、手にしていた白と黒を戻して、緑を両手に持った。

今度は、大きさで悩み始めたよう。



「ぁ、わたしは、あとでゆっくり見るつもりなの。今は、あなたにお願いしたいことがあるんです。リードさん、少しだけ、お話いいですか?」



お土産を選ぶのにとても真剣な様子のリード。

エミリーは、なんとか自分の方に向いてもらおうと、顔を覗きこむようにして話しかけた。

お願いごとは、きちんと目を見て話したい。



「私に願い事ですか―――何を?変なことなら聞きません・・・がっ・・・ふっ!?」