シャクジの森で〜青龍の涙〜

食事を終えて廊下に出ると、シャルルを連れたシリウスが立っていた。



「私は、打ち合わせがあるゆえに、シリウスと共に居るが良い。―――シリウス」

「はい、アラン様。承知致しました」



しっかり、頼む。

威厳を込めた瞳と声をシリウスに残し、アランは廊下の向こうに消えていった。



「うちあわせ・・・?」



ぽつりと呟いた声が、静かな廊下に吸い込まれていく。

離れてしまうと、たちまちに不安感と寂しさがエミリーの胸の中を支配していった。

一人でどこにいればいいのだろうかと、迷う。

ここは危険なところで、城中みたいに外の散歩は出来そうにないし―――



「はい。この先、国に入る前に難所がありますので、きっとその事でしょう」



館長からこの先の情報を手に入れ、少しでも安全に進めるように話すのです、とシリウスは言う。



「さ、エミリー様。メイドたちは、あちらで買い物を楽しんでおります。行きましょう」

「え、おかいもの・・・メイたちが?この中に、お店があるのですか!?」



驚きのあまり、知らずに声が大きくなってしまう。



「はい。ついでに言えば、浴場も御座います」

「浴場も??」



浴場は最上階にあって、お金を払えば誰でも入れると教えてくれた。

けれど、浴場はともかくとして、お店の中には一般の旅人たちもたくさんいるはずで、とっても行きたいけれど、ちょっぴりの不安が胸を過る。



「わたしも、お店に行っていいのですか?」

「はい。館長殿が今の時間、我等に貸し切りにしてくれましたので、エミリー様も十分にお楽しみ頂けます」



シャルルの紐を受け取るアメジストの瞳が、きらきらと煌く。

現金なもので、さっきまで感じていた不安な気持ちも寂しさも一気に吹き飛んでしまった。

買い物なんて、思い切り久しぶりのことで、わくわくとした気持が抑えられない。

しかも、貸し切りだなんて、なんて素敵なことなのだろうか!



―――館長さん、いろいろへんてこだって思ってしまって、ごめんなさい。



と、心の底から謝って、ふと、思い出した。

そうだ。

肝心なことを忘れてはいけないのだった。



「・・・ぁ、そうだわ。リードさんも、そこにいますか?」

「は・・・リード、で御座いますか?・・・はい、恐らく・・・建物から出ないよう厳命が出ておりますので」

「そうなの、よかったわ。用事があるの」

「は・・・用事、ですか」