シャクジの森で〜青龍の涙〜

「風の国?」

「あぁ、この先にある国だ。彼の強さは、王に匹敵するかもしれぬな」


何の秩序もないこの荒野のただ中で、オアシスを運営し守っているのだから、と。

その言葉のはしっこに、尊敬の念が見えた気がした。


今の時期に、毎年訪れるオアシス。

もしかしたら、館長の舞いは毎度お馴染みのことなのかもしれない。

歓迎の舞い、とか銘打って、毎回おかしな舞いを披露していそうだ。

だからアランは見慣れていて、動じなかったのかもしれない。

尊敬の念も、もちろんあるのだろうけれど。



皿からコップ、カトラリーに至るまで、全部が四角いのを面白く思いながら食事を進めていく。

何しろ、壁にあるランプシェードやカーテンの模様まで四角いのだ。

館長のこだわりに、呆れるよりも感心してしまう。



完全に二人きりの食事は、知り合って以来二度目。

一度目は、ドキドキしてしまってちっとも喉が通らなかったけれど、今日は違う。

頬が蕩けるような美味しい食事に、これまた珍しく自らお話をしてくれるアラン。

内容は、この場所で以前にあった出来事。

微笑んで相槌を打ちながら、静かに耳を傾ける。

そして、いつも給仕がしてくれることを「今は、わたしがするわ」と、空になったお皿を重ねたり、お水をコップに注いだり、甲斐甲斐しくする。


旅先での、一風変わった場所での食事。

エミリーはささやかな幸せを感じていた。

こんな風にできる機会は、そう多くはないのだから。



食事の終わりごろ、約束通りに話を聞いてくれたアランは、口元に手を当てて考え込んでしまった。



「・・・リード、か。例の、フランクの助手だな。確かに、彼も同行してはおるが―――」

「あ・・メイは、とても気分が悪そうだったの。だから、頼んでみてもいいでしょう?」



両手を胸の前で組み、瞳にお願いの気を込めて見つめるエミリー。

アランへのお願いごとは、こうして一生懸命頼むと大抵叶えてもらえる。

たまに「それだけは、絶対にならぬ、駄目だ」と言われることもあるけれど。




「っ、良いが・・・だが、彼は今、ひとつ役目を負っておるゆえ」

「やくめ、ですか―――リードさんが?」

「あぁ―――だが・・道中くらいはいいだろう。彼の乗る馬車に、シャルルの籠を移そう」

「いいのですか?だったら、わたしから、リードさんにお話しするわ」



いきなり馬車に籠があったら、いくらなんでもびっくりしてしまう。

それに同乗してる人にも、出来れば移動して貰った方がいいだろうと思う。

エミリーはホッと胸をなでおろして、食後のお茶を飲んだ。