シャクジの森で〜青龍の涙〜

林の中の道を、ウォルターとシリウス、その他数名の兵に囲まれて進んでいく。

程なくして、前方に大きな門が見えてきた。

上部には看板のようなものが掲げられていて、書かれている文字は三種類ある。

その内の一つが、『ようこそ、旅人さん!』と読めた。


その門を潜って行けば、周りを生け垣に囲まれた広場の中心に、大きな塊が据えられているのが見えた。

黒々とした真四角の大きな台座に乗ったそれは、よくよく見れば、人の形に見えないこともないけれど、ただの石の塊のよう。

何を表現したのかよく分からないけれど、ガシガシと適当に削り取った感の強いそれは、前衛的というのか・・・シンボルなのだろうか。

アランに聞けば、あれは館長の趣味だ、との答えが返ってきた。

それの周りを囲むように水場が設置されていて、何人かの旅人が手を洗ったり水を汲んだりしている。

そこを通りすぎると、だんだんにクリーム色の四角い建物が見えてきた。

あそこで、食事をとるのだそう。


道すがら、所々に、変な形のオブジェが設置されていた。

そのどれもが、四角い部分があるのを不思議に思う。

まわりにある生け垣は手入れが行き届いていて、これまたきっちりと真四角に刈り取られている。

そういえば、門も四角い形だった。

きっと館長は、四角が好きに違いない。


建物に近付くにつれ、生け垣の向こうに芝生の植えられた場所があるのが見えた。

そこでは、寝転んで休んでる人がいたり、パンのようなものを食べてる人の姿もある。

置かれているものは微妙だけれど、澄んだ空気と緑豊かな景色は穏やかで、心が落ち着くものだ。


―――荒野の直中に、こんな場所があるなんて。



「アラン様、とても気持ちのいいところですね」

「あぁ、ここは、荒野の中ほど・・・ちょうど中間地点にある、造られたオアシスだ。ほとんどの旅人はここで疲れた体を休める。向こうにある建物では、宿泊も出来るのだぞ」



アランの示す方、芝生の向こうには、一際に大きな四角い建物があった。

何もない荒野の直中、作った時の苦労は、さぞ大きなものだっただろうと思えた。


館長さんは、どんなお方なのかしら―――



だんだんに大きくなっていくクリーム色の建物が視界いっぱいになった時、玄関の辺りでうろうろとする人影が、こちらに気付いてタタタタタと駆け寄ってきて丁寧に頭を下げた。

結構厳つい体つきのその人は、少し変わった格好をしていた。

髭の生えたお顔に、ちょっと派手目の色合いの西部劇のような服を着ていて、頭に被った帽子には、天辺に四角い飾りが付けられている。

にょきっと付き出たそれが、動くたびにゆらゆらふらふらと揺れて、金属で作られているのか、日に当たってきらきらと七色に輝いていた。



「王子様ぁ、我がスクエアーへ、ようこそいらっしゃいましたぁ!」

「・・・ヘルマップ、久しぶりだな。ここもそなたも変わりなく、何よりだ」