シャクジの森で〜青龍の涙〜

「確かに、聞いたのだけれど・・・」



もっとよく探してみようと、広場の中を歩いてみる。

辺りは警備兵の他に、メイドの姿がちらほらと見えるだけ。

―――と、思っていたら。

探し求める姿を、何頭も並ぶ馬の、そのまた向こうの木のそばに認めることができた。

でも、誰かと一緒にいるようで、話しながら歩き続けている。

急いで声をかけて呼び止めないと、また見失ってしまいそうだ。


エミリーは、急いでシャルルを腕に抱いて、ドレスの裾を摘まみ、走り出した。

王子妃となってからというもの、しずしずと歩いてばかりで、走るなんて久しぶりのこと。

ドレスの裾が絡んでしまうし、おまけに、背の高いアランと並んでも見劣りしないようにと、かかとの高い靴を履いていて、全然早く走れない。

こんなに走り難いものなのかしらと、動かない足を心の中で励ましていると、その足が、ちょっとした衝撃を受けた。


あ・・と思った時には、エミリーの身体は、どんどん傾いていた。



「きゃあぁぁ、エミリー様!」



あちこちから、メイドたちの叫び声や、ざくざくと土を踏む音が耳に届いてくる。

目標人物はどんどん歩いて行ってしまうのが、倒れ行く中でゆっくりとアメジストの瞳に映る。

シャルルも腕からすり抜けて地面に降り立っているのが分かる。

ゆっくりと流れる景色の中、兎に角、目的を遂げるために呼び掛けようと、懸命に、手を伸ばした。



「リー・・・」



―――ズザザーッ!!



「―――っ、きゃっ」



土を滑るような激しい音と共に逞しい腕がお腹にまわってきて、身体が宙で制止するのを感じた。

そのままぐっと引き寄せられて、背中にあたたかさを感じるのと同時に、重くて長~いため息と、何とも低い声が耳に届けられた。



「全く、君は・・・一体、何をしておる」



間に合ったから良かったものの・・・と、囁くような声が、何時になく低音で。

それに、身体を包む腕がどんどんどんどん強くなっていて。

とても怒っている様子がひしひしと伝わってくる。


こくん、と息を飲み、怖くて固まる身体をなんとかほぐして振り向けば、眉を寄せた怖~いお顔がエミリーを見下ろしていた。

シャクジの森で指を噛んでしまった時よりも、怖い。



「あ・・アラン様、ごめんなさい。でも・・あの、シャルルを」



ドキドキしながらも、何とか順序立てて説明しようと言葉を探していると、警備兵が駆け寄ってきて、失礼致します、と頭を下げた。



「・・エミリー、少々待て・・・何だ」

「はい、準備が整ったそうで御座います」

「ご苦労、皆を纏めて先導せよ。・・・エミリー、今の件、後程にゆっくりと聞くゆえ。今は、移動だ」

「はい・・・いどう、ですか?」

「あぁ、中に、参る」