シャクジの森で〜青龍の涙〜

慣れない馬車旅の上に、シャルルと二人きりなのは、相当に辛かったよう。

空色の瞳がうるうると水を含み、何とかして欲しいと、訴えていた。

小さいけれどしっかりとした働き者の手。

それをそっと触ってみると、ずいぶん冷えていて、出発前のニコニコ笑顔もなくなり、楽しい筈の旅が台無しになってしまっている。



「・・ほんとうにごめんなさい、メイ。休憩のあとは、ナミと一緒の馬車に乗るといいわ」



そう言うと、表情が一気に晴れやかになっていく。

でもすぐにそれが消え、困ったような顔になった。



「でも、エミリー様、それでは―――」

「いいの。アラン様に相談してみるわ。あなたは気にしないで、ね?」

「エミリー様、申し訳ありません」



不甲斐ない私をお許しください。

そう言ってふるふると震えるメイの背中を優しく撫で、エミリーはすぐ隣にいたウォルターに視線を移した。

彼は、ジェフからメイのことを頼まれているらしく、気に掛けてくれているのだ。



「メイ殿、気分が悪いのならばこちらに来てください。同行医官に診ていただきましょう」



さあ行きますよ。と、連れられていく小さな背中に向かって心の中でもう一度謝って、白馬車に行き、シャルルを籠から出した。


エミリーの気配を感じ取った瞬間に、シャルルはゴロゴロとのどを鳴らして甘えている。

メイには心配しないように言ったけれど、実際問題どうしようかしらと、頭を捻る。


もともと、荷車に乗ると思っていたシャルルは、何故かエミリーの馬車にいて、しかも“メイが共に乗るように”とアランが命じたのだそうで。

何か考えがあるのだろうけれど、メイには気の毒なことをしてしまった。



「シャルルも、辛かったのね?さぁ、お外にでましょうね」



紐を付けて馬車を降りていくと、何だか聞き覚えのある声が耳に届いた気がした。

願望が起こした幻聴かと思っていると、また、同じ方から声が聞こえてくる。



「・・・勝手に行かないでくださいっ」



この声は間違いない。

今度は、しっかりと聞き取ることが出来た。



「まさか、いっしょに来ているの?」


―――もしも、そうなら―――


エミリーは、その声の主をきょろきょろと探してみるけれど、警備兵ばかりが目について、どこにも見当たらない。

背がひょろりと高くて細い体は、この、がっしりとした体格の多い中では、かなり目立つ筈なのに。