シャクジの森で〜青龍の涙〜

「何かあればすぐに申せ。良いな?特に、この先は道が荒いゆえ」


気分が悪くなれば、すぐに、申せ。

と。その言葉通り、馬車が小刻みに揺れ始めた。



今、道があるかないかのところを、馬車は走っている。

窓の外は荒野のような景色が広がっていて、立木はまばら、草が所々に生えている程度で、遠くに高い山があるのが見えていた。



「―――何も、ないわ」

「そうだな・・・この土地は栄養不良ゆえに、草木が育ちにくいのだ。だから、ここには街も何もなく、どこの領土とも決められていない」



雨も、少ないのだ。と付け加えるアランの声はとても静かだ。


こんな景色を見てしまうと、ギディオンは緑豊かな美しい国なのだと、実感する。

城の傍にある、シャクジの森や山が国に繁栄をもたらしたのだろう。

だから、より一層に、あの森を大切にしているのだろうと、エミリーには思えた。



進むにつれ、荷を馬に乗せた旅人や、幌付きの荷車を運ぶ商人のような風情の旅人たちとすれ違う。

皆一行を見て足を止め、丁寧に礼をとる。

そのスタイルも様々で、それぞれのお国柄が出ているものだ。

そんな些細なことが新鮮で、興奮しながらアランに話しかけると、君はいろんなことに興味を示すのだな、と半ば呆れつつも優しく其々のお国を教えてくれる。



そのうちに馬車の速度が緩やかになり、窓の外の景色が緑多くなった時、ゆるり・・と停まった。



「休憩だ。参るぞ」



クッションに埋もれていた身体を引き起こされ、そのまま外まで誘導される。

降り立った場所は、林の中の広場といった感じで、周りにぐるりと木が生えていた。

ここで待て、と言われるままにしていると、ぞくぞくと後続の馬車が入ってきて、順番に整然と停めていった。


騎馬の兵たちも馬から降りて、固まった体をコキコキと動かしたりしている。

城から出て初めての休憩、日頃から鍛えているとはいえ、さすがに皆疲れていたよう。


白い馬車の馭者が車止めを施したのを確認して、エミリーは、アランの袖をそっと引張ってみた。

すると、ちらっと目をやったあとに、「行ってくるが良い」と腰から手が離された。

と、同時に、シリウスがピタリと後ろに着く。



馬車に向かって歩いていると、ハンカチを口の辺りに当てたメイが、フラフラ~といった風情で出てきたのが瞳に映る。



「エミリー様ぁ!お会いしたかったですぅ!」



目が合った途端に、ぱたぱたと駆け寄って来たメイは、とても具合が悪そうで・・・。



「メイ、大丈夫?顔色がわるいわ」

「エミリー様・・・やっぱり、ホッとしますわ・・・」



そう言いながら、はあぁぁぁ・・・と、大きな息を吐いた。