シャクジの森で〜青龍の涙〜

そのシャルルは今―――


白い馬車の中で、寝そべっていた。

新しい手籠は快適で居心地がよく、馬車もあまり揺れずに気持がいい。

ただ、同乗しているニンゲンが、ちょっぴり気にくわないけれど―――


ちら・・とそこに目を向けると、そのニンゲンは、じーっと微動だにせずに、真っ直ぐに前を向いていた。

緊張感いっぱいの顔、紅い髪に、空色の瞳。

黒い服を着てエプロンをしたこの姿には、もちろん見覚えがあった。

大好きなご主人様エミリーの周りで、いつもちょろちょろと動きまわっているニンゲンだ。

たまに、部屋の中をうろうろしていると、ホウキ、という道具をつんつん突き出して追いたててくる、とても失礼なニンゲンだ。


確か、“メイ”だといったはず。

ご主人様に、やたらとべたべたと触れるあのオトコよりは好感度は高いけれど、いつも怯えた風なのが気にくわないところだ。


どうして、メイが一緒にいるのだ。

御主人様は何処に行ったのだ。


そう考えると、イライラとしてバリバリと爪を研ぎたくなる。

むくっと体を起こせば、メイの体がびくんと揺れるからまたイライラとする。

エミリーから「おイタしちゃだめよ?」ときつく言われているので、無駄に毛づくろいなんかをして、その感情をなんとか制御する。


アランサマという、あのニンゲンが一緒よりはいいけれど。

あのオトコだけは、油断ならないのだから。



たまに、窓を開けて外と会話しているのが聞こえてくる。



「ウォルター様、休憩は、まだでしょうか?」

「お手洗いですか、それとも車酔いしましたか。もう少し先に進めば休憩です。もう少し耐えてください」



と。


“キュウケイ”とは何か。

シャルルには到底理解できない言葉だが、メイがそれを待ち遠しく思ってることはヒシヒシと伝わってくる。


どうも、キュウケイとやらは、いいものらしい。

何度となく聞いているので、だんだんにそれが分かってきた。


シャルルは毛づくろいを辞め、柔らかなクッションの上でゴロゴロと寝がえりを繰り返しながら、メイというニンゲンと同じく、そのキュウケイを待ち望むことにした。


メイとの想いは、大まかに一緒なのだ。


―――エミリーニ、アイタイ―――