エミリーはクッションの効いた椅子に座り、感慨深く窓の外を眺めていた。
たくさんの人たちの声が届いてきて、小さな子もニコニコ笑顔で一生懸命手を振ってくれていたのが、とても可愛らしくて嬉しかった。
事前に“良いか、絶対に、手を振り返してはならぬぞ”と怖いお顔で言われていて、皆に応えることが出来なかったのは、やっぱり残念だったけれど。
今はもう民たちの声は聞こえなくなり、窓の外は緑ばかりになっている。
街中を抜けたこともあり、速度がぐんと上がったようで、景色はどんどん後ろに流れていった。
“一番近い国境を越えていく”と聞いているので、出国するのももう間もなくだろうと思える。
まだギディオンの国しか知らないエミリーにとって、この先どんな景色が見られるのかが楽しみで、頬が自然に緩む。
馬車は幾つかの小さな街を通りすぎ、やがて進む先に、白い塀が見えてきた。
そう、国境、だ。
国と国をすっぱりと隔てるそれは、遠くからでもはっきりと見え、城壁よりも高く大きいものだと思えた。
これが、旅人たちの前に立ちはだかり、敵からの侵入を防ぎ、国を守るのだ。
門の方へ近づくにつれて、高くそびえる見張りの塔も見えてきた。
その玄関辺りから門の方まで、ずらりと兵士たちが並んでいるのがわかる。
最前線を守ってくれている人たちだ。
一行の長い列が、敬礼をする兵士たちの間を通って、門を潜りぬけていく。
窓の外には、見上げても先が見えないほどの高い塀と、それに負けないほどに大きな門扉がある。
とうとう、ギディオンの国を出るのだ。
外国に出る、瞬間だ。
“エミリーさん、道中気を付けるのですよ。ギディオンとは違い、危険も多くありますからね。アランの言うことをしっかりと聞いて、精一杯、旅を楽しんでくるのですよ”
出発時に皇后から言われたことを思い出し、エミリーは隣を見上げた。
アランは、居並ぶ兵たちに向かって掌を見せて応えている。
兵たちは微動だにしないけれど、緊張した面持ちが変化して、少し嬉しげに見えるのは気のせいではない。
いつも思うことだけれど、やっぱり、アランは、人望の厚いとても立派な王子様なのだ。
行く先々で、粗相をしないようにしなくちゃ・・と、エミリーは改めて気を引き締めた。
「ん・・・?」
疲れたのか?と言いながら手を握ってくれるアランに、首を横に振りながら微笑みを向ける。
とても素敵だわ、なんて、見惚れてしまっていたことは、内緒だ。
「なんでもありません。まだまだ平気です」
そう。ちっとも疲れないのだ。
馬車はあまり揺れないし、事前に持ち込まれていた様々なグッズのおかげで、車内はとても快適なのだから。
気になると言えば、ひとつだけ。
シャルルのことだ―――
たくさんの人たちの声が届いてきて、小さな子もニコニコ笑顔で一生懸命手を振ってくれていたのが、とても可愛らしくて嬉しかった。
事前に“良いか、絶対に、手を振り返してはならぬぞ”と怖いお顔で言われていて、皆に応えることが出来なかったのは、やっぱり残念だったけれど。
今はもう民たちの声は聞こえなくなり、窓の外は緑ばかりになっている。
街中を抜けたこともあり、速度がぐんと上がったようで、景色はどんどん後ろに流れていった。
“一番近い国境を越えていく”と聞いているので、出国するのももう間もなくだろうと思える。
まだギディオンの国しか知らないエミリーにとって、この先どんな景色が見られるのかが楽しみで、頬が自然に緩む。
馬車は幾つかの小さな街を通りすぎ、やがて進む先に、白い塀が見えてきた。
そう、国境、だ。
国と国をすっぱりと隔てるそれは、遠くからでもはっきりと見え、城壁よりも高く大きいものだと思えた。
これが、旅人たちの前に立ちはだかり、敵からの侵入を防ぎ、国を守るのだ。
門の方へ近づくにつれて、高くそびえる見張りの塔も見えてきた。
その玄関辺りから門の方まで、ずらりと兵士たちが並んでいるのがわかる。
最前線を守ってくれている人たちだ。
一行の長い列が、敬礼をする兵士たちの間を通って、門を潜りぬけていく。
窓の外には、見上げても先が見えないほどの高い塀と、それに負けないほどに大きな門扉がある。
とうとう、ギディオンの国を出るのだ。
外国に出る、瞬間だ。
“エミリーさん、道中気を付けるのですよ。ギディオンとは違い、危険も多くありますからね。アランの言うことをしっかりと聞いて、精一杯、旅を楽しんでくるのですよ”
出発時に皇后から言われたことを思い出し、エミリーは隣を見上げた。
アランは、居並ぶ兵たちに向かって掌を見せて応えている。
兵たちは微動だにしないけれど、緊張した面持ちが変化して、少し嬉しげに見えるのは気のせいではない。
いつも思うことだけれど、やっぱり、アランは、人望の厚いとても立派な王子様なのだ。
行く先々で、粗相をしないようにしなくちゃ・・と、エミリーは改めて気を引き締めた。
「ん・・・?」
疲れたのか?と言いながら手を握ってくれるアランに、首を横に振りながら微笑みを向ける。
とても素敵だわ、なんて、見惚れてしまっていたことは、内緒だ。
「なんでもありません。まだまだ平気です」
そう。ちっとも疲れないのだ。
馬車はあまり揺れないし、事前に持ち込まれていた様々なグッズのおかげで、車内はとても快適なのだから。
気になると言えば、ひとつだけ。
シャルルのことだ―――


