シャクジの森で〜青龍の涙〜

「アラン様からだわ・・・」


重厚に見えるそれを手に取り、ペーパーナイフで丁寧に開けると、薄緑色のカードが入っていた。

アランからお手紙をもらうのは、これで二度目。

一度目は、出会って間もない頃に貰ったもの。

そして、これは―――




『最愛なる妻 エミリー・M・ランカスター様へ



 私からの、贈り物だ。


 今回の旅路に必要なものだ。


 有効に活用して欲しい。



 アラン・ランカスター・ギディオン』






几帳面に書かれた文字と、とても短い文章。

けれど、とても気持ちの伝わるものだった。



「アラン様ったら、いつも、内緒なんだから―――」



エミリーは手紙を抱き締めるように胸にぎゅっと当てて、贈り物を眺めた。



「どうだ、気に入ってくれたか?」



その夜、そう言って部屋に来たアランに抱き締められながら、エミリーは感謝の気持ちを精一杯に伝えたのだった。






「シャルル、旅の間はいい子にしていましょうね」



籠に収まったシャルルは、返事の代わりに、クルンとしっぽを振って見せた。

そこに、ノック音が響いて、アランが部屋の中に入ってきた。

公務服を着ていて、いつもに増して立派に見える。



「エミリー、支度は整ったか?」

「はい、アラン様」



立ち上がって作法通りに礼をとれば、アランの手が差し出される。



「では、参るぞ」



武骨な手に、そっと手を預けると、ゆるやかに腕まで誘導される。

シャルルの籠と猫グッズは、ウォルターとシリウスが運び、メイとナミはエミリーの鞄を持って付き従う。


エミリー初旅行の、始まりだ―――