白く色が塗られたこれは、既存のものではなく、旅仕様として新たに製作されたもの。

以前の物よりも大きく、旅先でも馬車の中でも窮屈な思いなく過ごせるような設計にしてあった。

旅先の、慣れない雰囲気に怯えることのないよう、カーテンで囲うことも出来るようになっている。

これは、エミリーのお願いの結果ではなく、アランが内緒で準備していたものだった。



「アラン様は、やっぱり優しいわ。ね?シャルルもわかるでしょう?」





あれは、モルトとお話をした、あの日の夕暮のこと。

夕食のときにお話しすることがたくさんになってしまい、相談することを第一に持っていこうと、段取りを懸命に考えるエミリーの元に、この白い籠が届けられたのだった―――




『―――アラン様より、贈り物で御座います』


「お届けもの?はい、どうぞ―――」



いつものように、入室を許可しても、警備兵は扉を開ける気配がない。



“なるべく、自分で扉を開けないように致しましょう”



危険な場合が多いのです。

そう教わっているエミリーには、開けることが出来ず、何度か「どうぞ」と言ってみるものの、扉が動く気配は微塵もなかった。



『申し訳御座いません。エミリー様がお開けください』



そう言われ、おそるおそる開けたエミリーの面前に、大きな物体が、ヌッと差し出された。

アメジストの瞳を瞬かせつつよく見れば、それは、大きなリボンが掛けられているものだった。

形は大きな鳥かごのように思える。

重そうに見え、受け取っていいものかどうか迷ってしまう。

何より、アランからは何も聞かされていないのだ。



「えっと・・・アラン様から、ですか?」

「はい、そうで御座います。何分大きなものです。中に、お運びしてもよろしいでしょうか」



隣で目を光らせる警備兵と、エミリーに対して、交互に了解を求めた男性は、スススと運び入れるとすぐさま部屋から出ていった。


窓際のソファの上に置かれたそれのリボンを解くと、はらりと布が落ち、白い籠が現れた。

扉は、楽に出入りできるよう大きく作られていて、中は大半がクッション状のベッドで占められているけれど、しっかりと平らな部分も確保されている。

扉の両脇には、薔薇の御印の彫刻が嵌めこまれていて、ベッドの上には猫グッズが入れられた小さな鞄も置かれていた。

どれもこれも、一つ一つに、エミリーの印が施されている。


鞄の中身を見ると、シャルルの首に巻くリボンとリード、それに、アランの紋章付きの封筒が入れられていた。