手の中の束をじゃらじゃらと弄りながら向かったところには、門がある。

その脇には、木目も新しい小さな扉があった。

それは以前にはなかったもので、婚儀の頃に設置されたもの。

そう。

これは故郷の両親専用の扉で、今は使われないもの。

小さな胸が、きゅっと締め付けられた。



「エミリー、すまぬ。だが、現実をしっかり受け止めることも、前に進む為には大切なことゆえ・・・」



膝の上でぎゅうと握られたエミリーの小さな手。

それを、あたためるように、ほぐすように、大きな手が優しく包み込む。

見上げれば、眉を寄せて唇を引き結んだアランが映り、エミリーは切なさを隠して微笑んで見せた。

月明かりの加減なのか、ブルーの瞳は潤んでいるように見え、エミリーには、アランにとても心配をかけているように思える。



「・・・アラン様。わたしは、わかっています。そんな顔をしないで・・・気にしないでください。それに、今、とても楽しいの。だって、アラン様とのデートですもの」

「そうだな・・・この先にあるもの、きっと君は気に入る筈だ」

「はい、わくわくします」



二人が話している間に門は解錠され、ぎいぃ・・と軋む音を立てながら、重そうにゆっくり動いていた。


開き終えて振り返ったリックの瞳に、馬上で見つめ合う二人の姿が映る。


ほんわりとあたたかなオーラを纏うエミリーに、アランの甘く優しい眼差し。

大切そうに抱える腕は動かないままだが、さっきまで手綱を握っていた手は小さな頬を優しく包み込み、馬にまたがっている脚までもがエミリーの身体を気遣っているように感じた。

周りに放たれる他を寄せ付けない王子の威厳はそのままだが、腕の中にだけは全身で愛を表現している。

幼い頃から見知っている『氷』と比喩されるアラン王子がこんな風になるのは、本当に、エミリーだけなのだ。


滅多にお目にかかれないこの光景に、リックは声をかけるのを忘れて見惚れてしまっていた。

その耳に小さな吠え声が届いて、何とか視線を剥がして足元に移せば、愛犬がしっぽを振りながらじっと見つめていた。



「あぁ・・私としたことが」


この言葉を言うのは二度目じゃないか、と自らに突っ込みを入れて照れ笑いを浮かべつつ「アラン様・・・」と遠慮がちに声を掛ければ、いつも通りの鋭い瞳がリックを見る。

急いで頭を下げて森の方を指し示すと、馬はゆっくりと進んできた。



「・・・お二人が入ったあと、これは閉めますが鍵は開けておきます。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」

「リック、御苦労だった。気にせずに休むが良い」

「リックさん、ありがとうございました。おやすみなさい」