ほら、かわいいでしょう?と、リボンをぴらっと広げて見せるエミリーの手を、大きな手が下からそっと支えた。

その手が、珍しく震えているように感じる。



「・・・そう、だな。よく、出来ている―――エミリー、隣に座っても良いか?」

「えぇ、もちろん。―――アラン様ったら、今夜はなんだかおかしいわ」



少し離れた位置に座ったアランを、首を傾げて見上げる。

エミリーは、やっとこ最近、少しだけアランの表情を読みとれるようになっていた。

まだまだ外れが多いのが悩みの種ではあるけれど。

それでも毎日毎日研究している結果、今は、普通を装っているけれど、頬のあたりに力が入っていて普段よりもちょっぴり堅く見えるのだ。



―――何か気になることがあるみたい。



“―――入っても、良いか?”

“キスしても良いか?”



結婚前には、こんな風に聞かれることも少しはあったけれど、最近にはないこと。

わりあいに、思うがままいろいろされている印象がある。

お部屋にはいつも通りこっそりそっと入ってきたのに、なんだか様子が変に感じてしまうのも、エミリーの鈍い勘を後押ししてくれる。



「アラン様?どうか、したのですか?」

「―――いや、何でもない」


質問したままずっと見つめてみるけれど、アランはそれきり黙ったままで、リボンを持つ手のあたりをじっと見つめている。

なんだか“早く進めよ”と促されてる気がして、ちょっぴり気になりつつも、エミリーはそのまま名前の刺繍を始めた。



しんと静まった部屋の中に、暖炉の薪がパキンと弾ける音が響く。

窓際に置いてある小さな木に、柔らかな月明かりが当たっては陰っていく。

それを何度か繰り返した頃、漸くリボンが出来上がった。


早速それを首に着けるべくシャルルを籠から出して膝の上に抱くと、アランの言った通り、月の雫が首の辺りの毛並みに隠れているのを見つけた。

どうやって着いているのだろうと二人して注意深く探ると、長い紐が首に絡まっていて、どこがどうなっているのかよく分からない状態になっている。



「これは、複雑ゆえ・・・。解くよりもハサミで切ったほうが良いな。動かぬよう、押さえていてくれるか」



そう言ってアランが持ったギラリと光るハサミを見、シャルルの体がびくんと反応した。