シャクジの森で〜青龍の涙〜

アランと一緒に超えて来て以来、久々に入る世界の狭間。



『風の谷には、いません。青龍の結界の中に落ちたのです。彼は、狭間の空間に飛ばされた筈です』



シェラザードはそう教えてくれたのだ。

エミリー達の前に、以前と変わらずに真っ白で音も何もない光の平原が広がる。

道しるべも何もなければ、誰でも迷うのは目に見えてわかる。



「シャルル、絶対に、はなれたらダメよ。迷子になってしまうわ」



エミリーは光の先を見つめ、シャルルの紐を握り締めて進んだ。


いくらかの時間が経った頃、微かな風が、頬を撫でた気がした。

けれど、ここには風が起こるようなものは何もない筈で。



「気のせいね」



そう決めて歩いていると、また、空気が動いた。

今度は、横髪がふわ・・と揺れるほどに強い。

進むにつれてだんだん強くなっていくそれは、吹いては止まり、を一定の間隔で繰り返していることが分かった。


頭の中に疑問符を沢山浮かべながらも光の導きのままに行くと、前方に、山のようなものが見え始めた。

どうやら、風は、そこから巻き起こっているよう。



「ねぇ、シャルル。あそこにある山、なんだか、青く、見えるのだけれど?」



白い平原の直中にでーんとある細長いそれは、間違いなく青く見える。

山の頂上に当たる部分が上下にゆっくりと動いていて、地鳴りのような不気味な音も聞こえてくる。

山がぐっと下がるたびに、風がブオーっと、吹いてくるのだ。

動くたびに全体がキラキラと光るそれは、何だか見覚えがある。

まさか――――?



「あの、青龍さん、ですか?」



言葉が通じるかどうかは分からないけれど、最大限に近付いて話しかけてみる。

大きさから判断すれば、大青龍だ。

光の矢はこの山を突き抜けて向こう側に伸びている。

迂回するにはとても長細くて距離があるし、乗り越えるには疲れ切った体にはキツイ。

できれば、退いて欲しい、と思う。


けれど。


しん、と静まり何も反応がない。

ただ、一定の風が吹いてくるだけ・・・これは、もしかして寝ているのだろうか。



「もしもし?あの―――・・・あの!起、き、て、く、だ、さ、い!」

『何だあ?うるせぇなぁ・・・』



むくっと頭をもたげたその大きな鼻の穴からフンッと息を掛けられ、吹き飛ばされそうになりよろめくエミリー。

その華奢な身体を、大青龍の指先がサッと支えた。



『おぉっと、すまんなあ。つい・・・お?お前、見たことあるな。確か、リシェールの傍にいた天使だ。あの時はありがとうなぁ』

「い・・いえ・・・こちらこそ、ありがとうございます・・・」