真摯にまっすぐに向けられたブルーの瞳。

それは怖いくらいに真剣な色を宿していて、声もいつもより低くて。



“はい”と素直に返事をしたら“それで良い”と額にキスを残し、アランはいつも通りに執務に戻るべく食堂を出ていった。


夕暮れに、シャルルは家に戻ることが出来ないと知らされたあの後も、暫くの間しっかり抱き締められながら“大丈夫だ、エミリー、大丈夫だ”と何度も呪文のようにささやかれ続け、漸く気持ちを落ち着けることができた。

“もう平気です”と伝えようとして少し動いたら腕の力がぎゅうぅと強まってしまって、何度も息苦しくなって困ったけれど。

言葉だけじゃなく態度からもシャルルや両親のことを考えてくれているのが伝わってきて、とても嬉しかった。

信じて待とうと、心からそう思えた。



「ね?シャルル。アラン様にお任せしましょうね」


そう語りかけても、シャルルは聞いてるのかそうでないのか、ふわぁ・・と大きな欠伸をしている。



―――もしかしたら。

シャルル自身には、世界の狭間を通ってきたという自覚がないのかもしれない。

少し遠出をしてしまっているだけで、すぐにパパとママのいる家に帰れると思ってるのかも・・・―――



そんなことを考えながらシャルルをじーっと見ていると、リボンを持つ手があたたかなものにふわりと包まれた。



「―――エミリー、様子はどうだ?」



エミリーが驚いて振り返ると、いつの間に来ていたのか、アランがそこにいた。

ソファの背もたれ越しからすっぽりと覆い被さるようにして立っている。

既にナイトウェアに着替えていて、シャワーを浴びたところなのか、少し濡れたままの髪から爽やかな香りが漂ってきていた。

きっちりと王子らしい服を着込んだ姿も素敵だけれど、寛いだところもなんとも色気があっていつも見惚れてしまう。


―――こんなところを見られるのは、わたしだけね・・・。


散らかったままのテーブルの上を気にしつつも目が離せないでいるエミリーに、アランは穏やかな微笑みを向ける。



「すまぬ。極力驚かさないよう気遣ったつもりであったが・・・」

「・・・えっと、あの・・・アラン様?お仕事は、もうおわったのですか?」

「・・・心配でならぬゆえ、今宵は早めに切り上げてきた。この時間は、メイがおるかと思ったが―――やはり、無理をさせたな?」

「いいんです。あ、見てください。もう、でき上がるの」