シャクジの森で〜青龍の涙〜

「懸念とは、狭間の道のことか・・・」


「そうだ。私には、あの場がどうなってるのか分からないが、彼女のペットとはいえ動物が容易く辿り着けるんだ。道が濃くなっているんじゃないか?」



パトリックの言う懸念はもっともだった。

今までにエミリーの両親がギディオンに来たのは婚儀の時と、あちらで言うクリスマス休暇なる年変わりの期間だけであり、シャルルは一度もこちらに来たことがないのだ。


導きがあるとはいえ、二人でさえ、世界の狭間を通るには相応の覚悟が要るものだ。

単純な思考を持つ動物が迷わず来れるほどに、あの世界の狭間は甘くない。


ただ何もない白い光の世界が広がっているだけなのだ。

ひとたび迷えば別の場所に辿り着けば幸運、運が悪ければ永遠にあの世界を彷徨うことになる。



「道が濃くなっていれば、彼女の国の者だけでなく、異形の者までもが容易くこの国に辿り着く。そんなことが考えられないか?」



真剣な光を宿すブルーの瞳が見つめ合う。

パトリックの言うことは考えられる懸念事項の中で最も悪い事態だった。



「もしそんなことがあれば、パニックどころじゃないぞ」


「―――例の入口を、塞いだ方がいいと申すか」

「そうだ。原因が分かるまで、例の場所は塞ぐことをすすめるよ。危険な芽は早めに摘んでおいたほうがいい。今の時点で猫がこちらに来たのを幸運だと思った方がいいだろう」

「詳細は想像するしかないが、猫が迷わずエミリーの元に来た要因は分かっておる。が、狭間の道がどうなっておるかは分かっておらぬ。父君にも相談し、一時的に塞ぐことを検討しよう」



エミリーにも説明せねばならぬな・・・。


アランはそう呟くと、遠い空の下で暮らす義両親に想いを馳せた。

今頃何をしているのだろうか。

シャルルがこちらに来ていることを知らずに、また懸命に捜索をしているのではないだろうか。


アランがエミリーを迎えに行った際、驚きはしたものの、あたたかく迎えてくれた二人。

世界の違うこの国に、ただ一人の愛娘を嫁に行かせるなど相当な決意が要っただろうに、二人はそんなところは微塵にも感じさせなかった。



「―――本来ならば、私と共にエミリーがあちらに行き、送っていくのが一番良い。だが、生憎予定が詰まっておるゆえに・・・シャルルを帰せるのは、その後になるな」

「予定か。そう言えば、もうそんな時期だったな。彼女も楽しみにしてるんだろう?」

「そうだ。準備を万全にしておかねばならぬ。・・・パトリック、よく進言してくれたな、感謝する」

「あぁ・・一つ、教えてくれないか。猫は、どうやってここまで来たんだい?」



パトリックの疑問に、アランはくれぐれも内密にするよう言い含めつつ、今分かっていることを話して聞かせた。