シャクジの森で〜青龍の涙〜

エミリーにも分かりやすいよう、箇条書きの規則のように条件を言った後、アランは“暫くの間、シャルルと共にここにいて欲しい”とエミリーに頼み、医務室を後にした。


政務塔の中はまだまだ一般の民で賑わっており、一人ならばまだしも猫と共に歩くなどとは何が起こるか分からず、心配でならないのだ。

パトリックがしたように団長クラスの兵士で囲めばいいのだが、彼らも忙しい身でそうそう駆り出すわけにもいかないし、籠が出来あがってから塔に移動した方が楽で良いとの判断だった。


自らが歩けば自然と人が別れて道が出来る廊下も、エミリーだと逆に人を集めてしまい身動きできないほどに囲まれてしまうのだ。

特有のあたたかなオーラと優しげな美しい姿がそうしてしまうのだが、守れる者は城の中でも極少数であるのが事実。


執務室に戻ってすぐに城の大工方を呼び「簡単な細工で構わぬゆえに、急ぎ籠を作れ」と命じておいた。

恐らく一時間ほどで出来あがるだろう。

それを見たエミリーの微笑む姿が浮かび、ふと心がなごむ。



階下の賑わいも届かない静かな執務室の中、椅子に座り落ち着いた様子のアランの脳裏に浮かぶのは、そう遠くないあの日起こった、夜の書籍室での出来事。


“あなたにこれを授けましょう”


あの時に透けるような光輝く手から渡された物。

それが何故にシャルルの首にあるのか、それが不思議でならないのだった。

ふさふさとした毛に紛れて見えづらく思うが、アランの瞳にははっきりとその形が見てとれたのだった。



―――コンコン・・・


不意にノック音が聞こえ顔を上げれば、パトリックが扉をノックした姿そのままに入口で立っていた。



「アラン、集中しているところすまないが、ちょっといいかい?」

「あぁ、構わぬ。用件は、分かっておるゆえ―――」


アランが入室を許可しつつ「あの事だな?」と聞けば、パトリックは「あぁ、そうだ」と相槌を打ち執務机の前に立った。



「全く、君のお妃には参るね。細い腕の中にあるものが動くとは思わなかったよ。あれはちょっとした事件だ。シリウスはよく動じなかったものだな」


「君には世話をかけたな。シリウスは、日頃より彼女の行動に対する耐性が出来ており少々の事では動じぬ。この私と同等か、それ以上だ」


「そうか、全く羨ましい限りだよ。あの時の私の気分が君には分かるかい?この心臓が、止まるかと思ったよ」



やれやれとばかりに肩を竦め、パトリックは掌を心臓の部分に当てて見せた。



「あぁ、分からぬでもない。この国の女性は、猫等の動物は抱かぬからな。大変に珍しいことだ・・・だが、彼女の国ではごく一般的なことだぞ?」


「そうらしいな。・・・で、これからどうするんだい?」



それまで少しおどけ気味だったパトリックの表情が真剣なものに変わり、ぐぐっとアランに近づき声のトーンを落とした。



「・・・君にはわかるかい?どうやって彼女のペット一匹がこちらに来たのか。私には、一つの懸念があるのだが」