シャクジの森で〜青龍の涙〜

外に通じているのはここしかないし、手も繋がっている。

目隠しをされて見えないまま賊の体から飛び下りたあのときよりは、目標が見えるだけ遥かにマシだ。

エミリーは、そこに飛び込むようなイメージで思い切って身体をぶつけた―――



「―――頼むから、目を覚ませ。エミリー」



アランの焦ったような声が、すぐ近くでする。

頬に瞼に髪に、あたたかい何かが優しく触れている。これは、戻れたのだろうか。

恐る恐るゆっくりと瞼を開けると、すぐ前にアランの真剣な顔があり、その後ろに医官の心配げな顔があった。

穴に入れたと思った手は、大きな掌にすっぽりと覆われていた。


目が合うと「・・・・良かった」と脱力したように呟いて、指先に唇が落とされる。


身体の脇に重みを感じてそこを確認すると、シャルルが腕を丸めて座っていて、じーっとエミリーを見つめていた。



「シャルル、ありがとう。あなたのお陰だわ」



鼻をくすぐるように撫でると、指先をペロリと舐めてきた。

そのざらざらとした感覚が、戻ってきた実感を増す。


部屋の灯りが点されていて、既に夜になっている。

どのくらい闇の中をさ迷っていたのだろうか。

あれは、どこだったのだろう。

そして、あの女性は、誰――――?



「アラン様、わたし・・・」



エミリーが見てきたことを話そうとすると、アランの指先にぴたりと止められた。



「駄目だ、エミリー。まだ何も話すでない。医官の診察が先だ」



見下ろしてくる顔が入れ替わり、エミリーの額の辺りに掌がおりてきた。



「はい。エミリー様失礼致します―――」



聴診器を当て脈を計り、一通りの診察を終えた医官は、異常ありません、とアランに伝えた。

そして、これは薬です。眠れなければお飲み下さい。と、処方した薬を置いて、部屋から出ていった。

その背を見送ると、すぐさま逞しい腕が身体の下に差し入れられて、エミリーは、すっぽりと胸の中におさめられた。

苦しいくらいに逞しい胸にぎゅうぅと押し付けられ、とくんとくんと規則正しい鼓動のリズムが耳に届いてくる。

何もかもゆだねられる安心感に包まれると今更ながらに涙が込み上げて来て、エミリーはアランの胸に顔を埋めた。

大きな掌が、宥めるように、震える背中を撫でている。

少し時が経ちエミリーが落ち着いたのを見計らい、アランは静かに声を掛けた。



「では。エミリー、話して貰えるか?・・・ん、何があった?」



怖かったか?

そう優しく問いかけるブルーの瞳を見ながら、エミリーは気付けば暗闇の中にいたことから、シャルルの声が聞こえて穴の中に飛び込んだことまで、全てを話した。