シャクジの森で〜青龍の涙〜

“―――・・・あなたの、せいでは、ないのです―――”



綺麗な発声でそう言った女性の身体が、煙のように揺らいでだんだん薄くなっていく。



「あ、待ってください。ここは―――・・・」



追いかけるように伸ばした手が、空を掴む。おぼろげに光る白いモヤが全て消え去り、再び暗闇と静寂が戻る。

エミリーはまた途方に暮れてしまった。

このままここから出られないのだろうか。

一体どうしたらいいのだろう。



「・・・・アラン様」



ぽつん、と呟くと切なさが込み上げてくる。

溢れそうになる涙を懸命に抑えて、頬をペシペシ叩いて気合を入れ、エミリーは歩き始めた。

泣いたってどうにもならないのだ。

歩いていればいつか必ず出口にたどり着ける。

そう信じながら休みなく歩いていると、微かに音がしたような気がして、エミリーは確かめるために止まって耳をすませてみた。



“・・・・ャー・・”


「シャルル、なの・・・?」



音だと思ったのは、猫の鳴き声だった。

それはあまりにも小さすぎて、気のせいなのかもしれないと思うエミリーの耳に、再びそれは聞こえてきた。



“・・・ニャー”



間違いない、シャルルの声だ。この中のどこかにいるのだろうか。

徐々にはっきりと大きくなるそれに導かれるように進んでいくと、やがて前方に小さな光が見えてきた。

ポゥと光りを放ちながら浮いてるそれは、てのひらくらいの大きさで、よく見ればぽっかりと開いた穴にも思える。

覗いてみれば、光があるだけで他に何もない。


『ニャー・・・ニャー・・・』


けれど、シャルルの鳴き声はその穴から聞こえて来ているのだ。

すがるような思いで恐る恐るその中に手を入れてみると、ガシっと何かに掴まれた感触がした。



「きゃぁっ」



思わぬことで心臓が跳ね上がる。

けれどすっぽりと優しく包みこむような温もりには覚えがあって、エミリーの胸が驚きのそれから期待の高なりへと変わる。

同時に、名を呼ばれているような気がして、エミリーはキョロキョロと辺りを見廻した。

けれど穴の他には、上下左右ともに暗闇が広がっているだけ―――



『―――エミリー・・・エミリー・・・目を覚ませ・・・エミリー、戻って参れ』



聞き慣れたその声は、穴の向こうから聞こえてくる。

エミリーは穴をじっくりと見つめた。

手を入れたお陰なのか、さっきよりは大きくなってるけれど、小さな穴でとても人が通れるとは思えない。

丸に台形の棒が生えているような変な形で・・・例えるならそう、小動物の巣穴のような大きさだ。