シャクジの森で〜青龍の涙〜

それに対しシャルルの様子は、ずんずん余裕をなくしているよう。


ゆっくり動いて行く武骨な手を、興奮した様子の瞳が追いかけていく。

とうとうどうにも我慢ならずに自身最強の必殺技である猫パンチをおみまいしようと、シャルルはグッと身がまえた。


自分を捕まえたあの人間にも、ダメージを与えたのだ。

この失礼な人間にも効くに違ない、さあ行くぞ!と飛び掛かかった――――・・・気がしたのだが・・・。


突然にその体が浮いてしまい、情けなくも宙ぶらりんにぷらぷらと揺れていた。

急な出来事にパニックになり、バタバタと暴れようとするシャルルの耳に、優しいご主人様の窘める声が届いてきた。



「こら。ダメじゃない、シャルル。何をするつもりなの。この方は、アラン王子様なのよ。わたしの旦那さまなの。ね?シャルルはいい子でしょう?なかよくしてね。でないと、アラン様の塔に入れてもらえないわよ?」



分かるでしょう?ダ、メ、な、の。


と、たしなめるようにするエミリーの、ちょっぴり迫力がある声と瞳を見、しゅんと大人しくなったシャルル。

その鼻のあたりをか細い指先がくすぐるように撫でると、だんだんに気分が良くなってきたよう。

目を閉じてゴロゴロとノドを鳴らし再びウトウトとし始めた。



「そう。シャルルは、いい子ね・・」

「全く・・その技は、君にしか出来ぬな」



安堵の息まじりにそう言うアランに、エミリーはニッコリと笑いかける。



「あの、アラン様?シャルルをお部屋に入れてもいいですか?」

「っ、それは―――・・・あぁ、仕方あるまいな」


アランは気付いたことがあった。

先程にエミリーがシャルルを抱き上げた際に、首元に光るモノを見留めていたのだ。

それは、確かに自分が義両親に渡したもので、本来ならばここにあってはならないもの。


ふむ・・・と呟き、口元に手を当て深い思考に入るアラン。

エミリーはそんなアランの様子に気づかず、丸まった背を撫でながら呪文のように言葉を繰り返していた。



「シャルル、よかったわね。パパとママがお迎えに来るまでお部屋にすめばいいわ。アラン様はおやさしい方なのよ。だから、なかよくしましょうね」



口元に手を当てて集中し、頭の中で様々な情報整理を行った結果、一抹の不安を感じたアランは、少しばかりの条件を出すことにした。

全ては、エミリーの為。



「エミリー、籠を作らねばならぬな。暫くこちらに暮らすことになるゆえに、必要だ。それから――――・・・」