シャクジの森で〜青龍の涙〜

「王子妃様!よかった、元気そうだわ」

「ニコルさんも。もう平気なのですか?」

「ええ、不思議なことに全然動けなかったけれど、却ってそれが良かったみたい。どこも痛くないし、大丈夫!けれど、爺に叱られちゃったわ・・・“すぐに帰ります!ギディオンの王子様にも謝罪しなければいけません!”てすごい剣幕なの。――――あの、王子妃様」



ニコルは唇を引き結び真剣な顔付きになって、深々と頭を下げた。

と同時に、後ろに控えていた爺も警備勢も一斉に跪き頭を垂れた。



「私のせいで・・・本当にごめんなさい!」

「ニコルさん、いいのです。頭をあげてください。わたしこそ、ごめんなさい」



“気を付けよ”とアランに言われていたのに、年上としてもっと十分に警戒心を持つべきだったのだ。

浮かれていた自分に反省しきりだ。

すると、帽子を脱いだ館長が頭を下げた。



「いえいえ。一番悪いのは、賊が混じっていたのを見抜けなかった、この私、ヘルマップです。申し訳ありません」



「いえ、我らが」と最後にはルーベンの兵士までもが加わり、皆が際限なく頭を下げ合うのを見かねたシリウスが、遠慮がちにもはっきりと声を上げた。



「皆様、早く城に戻りましょう―――」







――――程なくして城に戻り医官の診察を受けた後、エミリーは部屋に戻った。


シャルルは籠の中で丸まって眠っている。

テーブルの上には、落ち着きますからと用意されたお茶が乗っている。

ゆらゆらと立ち上る湯気をじっと見つめる。

しんと静まった部屋の中にひとりきりになると、急に恐怖が蘇ってきた。



もしも、あのとき誰も助けに来てくれていなかったら、どうなっていたのだろうか。

あのままニコルと一緒に連れさられてしまったら。

もう二度と、アランに会えなかったかもしれない――――


小刻みに震える自らの身体を、ぎゅっと抱き締める。


―――今すぐ、会いたい―――



「アラン様――――」



ぽつんと呟くと、籠の中のシャルルがむくっと顔をあげた。

部屋の扉の方をじーと見つめたあと、耳を倒して籠の奥の方へ移動し縮こまった。



「シャルル、どうしたの?」



にわかに廊下の方が騒がしくなってきた。

沢山の靴音がして、誰のか分からないけれど数人の男性の声がする。

静かになった・・と思ったら、扉が少し開いた。

気のせいか、ちくちくと肌を刺すような空気が入り込んでくる。



「良い。皆は部屋に戻っておれ」