シャクジの森で〜青龍の涙〜

「ニャー!」

「―――エミリー様ぁ!!」



エミリーが通りに戻るとすぐ、シャルルとメイとナミが駆け寄ってきた。

メイとナミがルーベンの兵士たちにお礼を言うのを耳にしながら、エミリーは足元で身体を擦り寄せるシャルルを抱き上げ、二人に向きあった。

蒼白な頬をしているけれど、見たところ怪我はなさそうだ。



「メイ、ナミ、心配かけてごめんなさい。二人とも大丈夫?怪我はない?」

「何を仰るのですか!私たちのことよりも、エミリー様です!・・・そのお姿は・・・このお怪我は・・・」



一つ一つを確認するように見たメイはそれっきり絶句してポロポロ涙を零してしまい、ナミが代わりに続きを言った。



「お可哀そうに、何てことなのでしょう!!このままでは城に戻れませんわ!」



エミリーの身体を調べながら震え声できっぱりと言うナミの瞳も、こぼれんばかりの涙をためている。

二人の剣幕をみて、エミリーは改めて自分の身体を確認してみた。

手に作ってしまった擦り傷は、見た目は血が出て痛々しいけれど消毒すれば平気だろうし、腕と背中は少し痛いけれど、故郷の家で木から落ちた時に比べれば全然平気で大丈夫だ。

その他には何度も踏んでしまったドレスの裾辺りの汚れがあるだけで、綻びは見当たらない。

お尻の部分も汚れてはいるだろうけど、大体叩けば取れそうな程度。総合判断すれば、酷い、と言えるのは手の怪我だけだ。

でも二人の表情は、そう言っていなかった。



「ぁ・・そんなに酷いかしら・・・?」



オズオズと訊けば、メイは涙を拭いたハンカチを握り締めて、きっぱりと言った。



「エミリー様、酷いなんてものじゃありません!全くもってボロボロですわ!このまま帰るわけにはいきません!」



早く直せるところを探しましょうと話しあうメイとナミに、館長がのんびりとした口調で声をかけた。



「お嬢さん方~、あのお店の人が“どうぞ、お使いください”と言ってます~」

「まあ!オアシスのヘルマップ館長さんではないですか!」

「ご親切に、どうもありがとうございます!」



ささ、エミリー様、早くお直し致しましょう。

と、二人に連れられて店に入り、ドレスを脱がされ怪我の有無を慎重に調べられたあと、メイクから全てを直した。

手の怪我は、これもまた館長が手配した街医者が来て治療していった。


店の人に丁寧にお礼を言って外に出れば、人待ち顔のニコルがいた。

エミリーの顔を見て、暗かった表情がぱあっと晴れやかになる。