シャクジの森で〜青龍の涙〜

どうやら目の前にいる人は、帽子は無いけれど踊りの渦中にいた人のよう。

そして、いつの間にこんなに来たのだろう、と思うほどの人が周りにいた。

皆兵士のような服を着て跪き、心配げにエミリーを見ている。

ニコルは気を失っているのかぐったりとし、兵士の腕に抱かれていた。



「全く、王子妃様も無茶が過ぎます。あぁこれは――――王子様に叱られますな」



いや、それだけでは済みませんな・・・。

と、擦り傷が出来て血が滲んだエミリーの手を見、雪花飾りの男の人が顔を顰める。



「申し訳ありません。我らが通りに控えていながら、油断しておりました。まさか、この方の雪花の団に賊が混じっていたとは思いませんでした」



そう言って兵士の一人が、地に頭を擦らんばかりに下げる。

と、皆もそれにならった。



「私の“来る者は拒まず”の精神が仇になりました。申し訳ありません」

「あの、頭をあげてください・・・・それで・・あなたたちは?」

「我らはルーベンの兵士。レオナルド様の命により、警備をしておりました」

「レオナルドさんの・・・ありがとうございます。あなたも―――」



次にエミリーは、目の前にいる雪花飾りの男を見つめた。

サンドベージュ色の髪はヴァンルークスの民のようだけど、兵士たちが向ける態度が一般人へのそれと違う感じがする。



「王子妃様。私がわかりませんか?」



そう言ってにっこり笑いながら、男は懐から帽子を出して被った。



「あ!あなたは――――」



そこにいるのは、飾りは違えど、まぎれもなく―――



「――――えっと、あの、へ・・じゃなくて。えっと、館長さん!?」

「そぉです、王子妃様~!お久しぶりです~!こっちの話し方の方が、いいですか~?」



座ったまま腕を振り上げピシッとポーズを決める館長の姿を見て、エミリーはこみ上げる笑いを押さえられなかった。

相変わらず面白い。「えぇそうね」と受けながらふと思う。



「でも、どうして、ここにいるのですか?オアシスは?」

「部下に任せてます~。私は、これでも愛国心の塊~、毎年祭りには参加するのです~。あ、そうそう、ニコル王女は心配ありません、彼女は今、動けないだけ~」



そう言われてエミリーがニコルの方に目を向けると、ゆっくりと手を動かしていた。

もう少しで、完全に動けるようになりそうだ。



「王子妃様、立てますか?シリウス殿の所に行きましょう。彼等は今メイドと民を守りながら通りの賊を始末しておられますが、もうそろそろ終わった筈です」