シャクジの森で〜青龍の涙〜

「っぐわぁっ」



痛みで賊の体が反り腕が緩み、お腹のあたりの圧迫感が少し弱まった。


「何を―――」



「はなしなさいと、言ってるのです!!」



小さいながらも、ぴん、と張りつめたエミリーの声が路地に響く。

と、それまで聞こえていた全ての音が消えた。



「くっ・・・何だ、これは・・・」

「ちっ、体が、動かん」

「くそ!どういうことだ!」



しんと静まった路地に、賊たちの息遣いと戸惑いの声が響く。

エミリーは背を押さえられて担がれ、くの字に近かった身体を懸命に起こして延び上がりながら、賊の体を足がかりにしてずりずりと上に向かって動いた。



「おい!待て!逃げるな!」



そう叫ぶように言うけれど、そんなことは聞いちゃいられない。

まだ動けない様子だけれど、力の持続時間はどれだけあるか分からないのだ。

早くしなければ!

何とかずれていくことが出来、おしりの部分が賊の肩のあたりまで来た。

すでに身体は下向きだ。

どれだけの高さか分からない。

怖い。

けれど、思い切ってお尻を空に投げ出した。



「な!何をなさるのですか!」


叫ぶ声が聞こえる中、ゆっくりと身体が落ちていくのを何とか頭だけは守ろうと、上と思う方に向ける。

ドシャッ・・という音と共に背中と腕をしこたま強く打ち付け、ズキズキと痛み涙が滲み出る。

けれど、唇を噛んでそれを無視した。


とにかく動かなければ。


後ろ手で縛られているし布は身体に纏わりついて動きづらい。

何も見えず賊の位置も分からないまま立とうと必死にもがく。

けれど、慌ててしまっているせいかドレスを踏んでしまってちっとも上手くいかない。

何度もしりもちをつきながらも立とうとしていると、大勢の足音と叫ぶ声と衣擦れの音が聞こえてきた。

男の呻き声と一緒に、どさ・・・と何かが落ちたような音もする。

数人の男たちの叫び声と足音が大きく聞こえ、やがて、しーんと静まった。



「ニコルさん!ニコルさん!どこですか?」



いくら呼びかけても返事がない。

まさかニコルだけ連れ去られてしまたのか。


どうなってるのかさっぱり分からず動けなくなったエミリーの元に、ゆっくりと足音が近づいてくる。



「王子妃様」

「・・い・・いやっ、来ないで!」

「大丈夫。味方です。暴れないで下さい。触れていいですか、今布を取ります」

「ほんとうに、みかた・・・なのですか?」

「はい。安心して下さい。ニコル王女も無事です」



布が取り払われ広がったエミリーの視界に、キラキラ光る雪花飾りが映る。