シャクジの森で〜青龍の涙〜

「あの、ニコルさん。良かったら、いっしょにお買い物しませんか?わたしも、アラン様に贈り物をしたいです」



本当!?ありがとう!嬉しいわ!と喜ぶニコルに微笑み返すエミリーの胸に、アランのお顔が思い浮かぶ。


何をあげよう。

驚いて、喜んでくれるだろうか。


いろいろ考えるだけで、心の中は幸せな気分に満ちていく。

何せ、こんな風に一人で買い物できる機会はそうそうないし、ましてやここは異国の地。

ギディオンにないものがたくさんある筈で、日頃の感謝の想いを伝えられる絶好の機会なのだ。


それでは何のお店に行きましょうかと二人が相談をしていると、軽やかな音楽が通りに響き始めた。

道行く人々が、何となく真ん中を空けている。

だんだん近づく笑い声と歓声、それに笛の音が重なって、なんだかとても楽しげなものが来るようだ。


しばらくすると、人波の向こうに踊りながら歩く一団が見えてきた。

雪花の飾りを付けた帽子とマントを身に着け、色とりどりの四角い小さな紙を撒き散らして進んでいる。

動き回る雪花飾りに日が当たり、七色の光が辺り一帯に乱反射して、眩しいけれどとても綺麗だ。



「あー!何だろうと思えば、祭りのイベントの一つか!―――しかし、今年の趣向はいつになく派手だな」

「あら、それは当然だわ。今年は特別だもの、いつもと同じではつまらないし、風の神も“今年は何かが違う”って気づいてくれないわよ」



エミリーたちの前を通って行くカップルが笑顔で話している。



「ニコルさん、お買い物は通りすぎてからにしましょうか」



見物することに決め、ニコルと二人で前に進み出る。

音楽が大きくなってきて、舞う紙吹雪がエミリーたちのところまで届いてくる。

花飾りを体いっぱいに付けてゆっくり歩く牛と、そのまわりで踊るたくさんの人達。



「こんなの初めて見るわ。面白ーい!」



ニコルがはしゃいで、もっと近づきましょ、とばかりにエミリーの腕を引いて更に前に出た。

踊り子たちは、見物人に近付いては紙吹雪を浴びせかけてピエロのようにおどけて見せ、周囲の笑いを誘っている。


キャハハと無邪気に笑うニコルとウフフと楽しげに笑うエミリーの傍にも、3人くらいの踊り子がスススと近付いてきた。

視界を遮るほどの紙吹雪が二人を包みこみ、エミリーの腕の中からスルリと抜けたシャルルがそれで遊び始める。

見えるのはキラキラ光りながら揺れる雪花飾りと色とりどりの紙だけ。


きれい・・と見惚れていると、その渦から2本の太い腕がぬっと現れた。

と同時に、エミリーの周りが、いきなり真っ暗になった。



「きゃっ・・・??」