シャクジの森で〜青龍の涙〜

「レオナルド王子は、すご~くモテるの。男性にも女性にも。本当に、悔しいくらい。私、彼からしてみればすっごい子供でしょ?パーティに来るのは大人の美しい方ばかりで、皆がみんな彼を射止めようとすると思うの。だから、何か“おおっ!これは!!”って言わせるものをあげたいの」



この機会に、絶対印象付けなくちゃいけないわ。と、恋する少女の真剣そのものな瞳が、エミリーを見つめる。

レオナルドはアランと同じ年で、ニコルはシンディよりも下っぽい。

割合歳の差が大きくて、不安に思う気持ちは分かる。

でもエミリーからしてみれば、ニコルはとても印象深くて可愛らしくて、十分、レオナルドの心に残っていると思えた。

それに二人並んだところを想像すれば、昨夜も感じた通りかなりお似合いなのだ。

二人の間がより近付くよう、なんとか助言したいエミリーだけれど――――



「あっ、そうだわ。一度だけ、手作りのケーキをあげたことがあります」



そう。

あれは、雪の降る真冬の夜。

サンタ風に作った服を着て、サリー直伝の手作りケーキを持って、執務室を訪ねたことがあるのだ。

エミリーがした贈り物と言えば、ただ一つ、それだけ――――



「一度だけ?しかも、ケーキ一つなの?それだけで?」

「えっと、そういうわけではないです。実は、婚儀前には何も贈り物をしていないの」

「え?じゃあ、どうやって氷の王子様の心を射止めたの?それはもう、た~くさんの候補がいたでしょう?」



並み居るご令嬢を、どうやって押し退けて一番前に出られたの?

興奮した感じで、エミリーにずずいっと近付くニコルの瞳が期待でキラキラと輝く。

エミリーはアランだけでなく、自身が恋しているレオナルドの心をも掴んでいるようなのだ。

その類い稀な恋の技を、何とか伝授してもらおうとニコルは懸命だった。


それに対して、エミリー自身には、どうしてアランが自分を好きになってくれたのか、ちっともさっぱり分からず・・・。



「え・・っと、とくに何もしていないわ??」



本当に、何故なのだろうか。

考えれば考えるほどに分からない。

普通に過ごしていただけで、好きになってもらうようなことなんて、何もしていないのだ。

贈り物同様に、アランからは、それはもうたくさんの事をしてもらったけれど―――



「何も??本当に!?うそ!」



ニコルが出す意外そうな声色を聞きながら、エミリーはふと気付いた。

今お土産にあげようとしてるのも、工場で貰ったヨーグルト1個―――・・・。