シャクジの森で〜青龍の涙〜

通りに出るとすぐ「お持ち致します」と自然に紙袋が兵士の手に渡る。

すると、待ちかねていたようにシャルルがエミリーの腕の中に飛び込んだ。

それとほぼ同時に、「あっ!やっと見つけたわ!」と、賑やかな通りを突き抜けるように、元気な声が響いた。

皆が一斉に振り返って見た通りの向こうから、警備を引き連れたニコルが一目散に駆けてくる。



「そんなに急いで・・・何かあったのですか?」

「あ、ちがうの。王子妃様に訊きたいことがあって、探していたの・・・少しだけいいかしら」



エミリーが快く頷くと、ニコルは自分のまわりにいる警備達を遠ざけ、「こっちに来て」と腕を引いて通りの隅に移動した。

けれど。

エミリーが動けば、当然シリウスとメイとナミがもれなくぴったり付いてくる。

シリウスはともかくとして、初護衛を命じられているメイとナミは“決して離れまい”と真剣そのものだ。

ちょっぴり顔をしかめるニコルを見て、エミリーは、皆に出来るだけ離れるように言った。

困ったような表情で互いを見るメイとナミには「少しだけだから」と宥め、険しい表情のシリウスには「どんな位置にいても、あなたなら大丈夫だと信じています」と納得させた。


3人が少し離れたのを確認して改めて向き直るエミリーの瞳に、珍しくモジモジしている様子のニコルが映る。



「あの・・訊きたいことは、レオナルド王子のことなの」

「レオナルドさんのこと?わたしに分かることなのかしら?」



こくん、と頷くニコルの頬がほんのり桃色に染まる。

どうやら、恋の相談みたい?



「もうすぐ彼の誕生日なの。でね、昨日“ニコル殿も来るか?”ってパーティに招待してもらえたの。初めてで、私、嬉しくて――――」

「間違ったらごめんなさい。ニコルさんは、レオナルドさんが好きなのですね?」



そう訊ねると、ニコルの頬がますます赤く染まり瞳は熱を帯びて潤んだ。



「あ・・だから、個人的に何か贈り物をしたいのだけど、何をあげたらいいのかわからなくて迷っちゃって・・・ね、王子妃様は、王子様に贈り物したことがあるでしょう?何をあげたの?」



―――贈り物―――


改めて考えてみれば、エミリーからアランに“何かをあげる”なんてことは、ほぼゼロに等しい。

アランは何でも持っているし、エミリーはあげられるような物は何も持っていない。

そういえば。

いつの間にか部屋に増えている様々なグッズ。

直に渡されることはあまりないけれど、あれもこれも、もらってばかりで―――――