シャクジの森で〜青龍の涙〜

昼食は、お国自慢のチーズとヨーグルトをふんだんに使ったお料理を堪能したエミリーたち。

薬師の元に向かうリードたちと別れ、食事処に隣接された工場の見学をした。

そこで、出来立てのヨーグルトを一つずつ貰う。



「これもジェフにあげたいけれど、渡すまでに傷んでしまうわね・・・美味しいから食べてもらいたいけど」



手に持った小袋を眺めつつ、メイは残念そうに呟く。



「まあ、メイ先輩ったら。ジェフ様にはすでにたくさんのお土産があるじゃないですか。これは、今日の夕食のデザートにいいのですわ。楽しみにしましょう」



ナミがきっぱりと慰めるのを聞きながら、エミリーはアランへのお土産ができたことを嬉しく思っていた。


ヨーグルトは、アランの好物の一つ。

はっきりと聞いたわけではないけれど、食事に出されればいつも美味しそうにしている。

それは本当に極々僅かな変化だけれど、毎日正面から見ているエミリーには、わかるのだった。

ついでに言えば、嫌いなものも、わかる。

それが何かは、料理長でさえ知らないのだ。

知ってるのは、エミリーだけ。



「アラン様、きっと喜んでくれるわ」



一つだけのカップ。

一緒に食べるのを想像して、一人で微笑む。

もしもお口に運んであげたら、アランはどんなお顔をするのだろう。

そんなことを思いながら―――



その後、一行は国一番の繁華街へと向かう。

たくさんの店が建ち並ぶここは、ギディオンでいえば市場通り。

比べてしまえば規模は小さめだけれど、八百屋から宝飾品まで様々なお店があって、人々の生活には欠かせない場所だ。

一日中それなりに賑わっている。


サディルの爺から「皆様、自由行動ですぞ!」と高らかに宣言され、威勢のいい売り込みの声や「もう一声!」なんて値切る女性の声を聞きながら、そぞろ歩きをする。


どの店の入り口にも、同じ様なドライフラワーのリースが飾ってあって、祭り前のワクワクするような高揚した雰囲気がとても心地いい。

エミリーは好みの色合いのリースを見つけ、近付いてじっくり眺めた。


馬車の中から見たとき気になっていた、キラキラと光る飾りも細部まで見る。


まるで万華鏡のような複雑で綺麗な形。

よく見ると、それの後ろにもキラキラ光る素材で作られた可愛い花が隠れていた。

四角に近い形の花弁が4枚あって、それがたくさん集まっている。

例えるなら、そう、アジサイの様な感じだ。