柔らかな牧草地。
シャルルと一緒にゆっくり歩きながらキョロキョロするエミリーの瞳に、柵越しに羊に餌をあげてるニコルが映った。
小さなてのひらに載せた草を、おっかなびっくりな感じで羊に差し出している。
その後ろに立つ爺が腕を出したり引っ込めたりしてて、とても心配げな感じがひしひしと伝わってくる。
「爺、見て!食べてるわ!とてもくすぐったいわ!」
愉しげに笑う声が聞こえてきて、微笑ましく思いつつ無邪気なニコルから視線を外すと、今度は簡素なベンチに座っているアニスを見つけた。
リードはどこに行ったのか、一人で自らの手の辺りをじーと眺め、深いため息をついている。
どうしたのだろうか。
「アニスさん。足はもう平気ですか?」
そう声をかけると、サッと、てのひらの中に何かを隠した。
「あ、はい、もうすっかり・・・王子妃様の方は、お話はもう済んだのですか?」
「はい。この国のことをいろいろ聞いて、とても勉強になりました。アニスさん、スケジュールの都合で先に都街に行けなくて、ごめんなさい」
「そんな、王子妃様、とんでも御座いません。こうして一緒に行動させて頂くことに感謝しておりますわ」
「・・・アニスさんは、今、何を見ていたのですか?」
隣に座ってやんわりと訊くと、アニスは小さく息を吐いて、エミリーにてのひらの中を見せた。
「・・・これですわ」
そこには、古びた小さな箱があった。
指輪を収めるくらいの大きさで、色も何も塗られていない木の質感そのままのシンプルなもの。
蓋部分に色の濃淡があるのは、以前はその薄い部分に何らかの装飾がされていたのだろうと思える。
アニスの指先が、箱の表面を丁寧になぞった。
「それは?大切なものなのですか?」
「はい・・・以前、王子妃様が私にお訊ね下さったこと、覚えていますか?」
「・・・はい。覚えています」
そう。確か“アニスさんは、どうしてギディオンに来たのですか?”だった。
「これが、その理由の、壊れたオルゴールなのです」
確か、代々伝わるそれを直しに来たと言っていた。
下部にあるねじをまわして、パカ・・と蓋を開けるアニス。
けれど、ギギギ・・ときしんだ音がするだけで、あとはうんともすんとも何とも鳴らない。
「仕掛けは、どこも壊れていないそうなんです。なのに、このとおり鳴らないなんて、とても不思議でしょう?次は鳴るかも・・・と期待しながら、こうして蓋を開けるんです。けれど―――・・・」
やっぱり駄目なのでしょうか。
と、俯いたまま残念そうに呟く雰囲気はとても哀しげで、放っておけば涙を溢してしまいそうで、エミリーは声をかけずにいられなかった。
シャルルと一緒にゆっくり歩きながらキョロキョロするエミリーの瞳に、柵越しに羊に餌をあげてるニコルが映った。
小さなてのひらに載せた草を、おっかなびっくりな感じで羊に差し出している。
その後ろに立つ爺が腕を出したり引っ込めたりしてて、とても心配げな感じがひしひしと伝わってくる。
「爺、見て!食べてるわ!とてもくすぐったいわ!」
愉しげに笑う声が聞こえてきて、微笑ましく思いつつ無邪気なニコルから視線を外すと、今度は簡素なベンチに座っているアニスを見つけた。
リードはどこに行ったのか、一人で自らの手の辺りをじーと眺め、深いため息をついている。
どうしたのだろうか。
「アニスさん。足はもう平気ですか?」
そう声をかけると、サッと、てのひらの中に何かを隠した。
「あ、はい、もうすっかり・・・王子妃様の方は、お話はもう済んだのですか?」
「はい。この国のことをいろいろ聞いて、とても勉強になりました。アニスさん、スケジュールの都合で先に都街に行けなくて、ごめんなさい」
「そんな、王子妃様、とんでも御座いません。こうして一緒に行動させて頂くことに感謝しておりますわ」
「・・・アニスさんは、今、何を見ていたのですか?」
隣に座ってやんわりと訊くと、アニスは小さく息を吐いて、エミリーにてのひらの中を見せた。
「・・・これですわ」
そこには、古びた小さな箱があった。
指輪を収めるくらいの大きさで、色も何も塗られていない木の質感そのままのシンプルなもの。
蓋部分に色の濃淡があるのは、以前はその薄い部分に何らかの装飾がされていたのだろうと思える。
アニスの指先が、箱の表面を丁寧になぞった。
「それは?大切なものなのですか?」
「はい・・・以前、王子妃様が私にお訊ね下さったこと、覚えていますか?」
「・・・はい。覚えています」
そう。確か“アニスさんは、どうしてギディオンに来たのですか?”だった。
「これが、その理由の、壊れたオルゴールなのです」
確か、代々伝わるそれを直しに来たと言っていた。
下部にあるねじをまわして、パカ・・と蓋を開けるアニス。
けれど、ギギギ・・ときしんだ音がするだけで、あとはうんともすんとも何とも鳴らない。
「仕掛けは、どこも壊れていないそうなんです。なのに、このとおり鳴らないなんて、とても不思議でしょう?次は鳴るかも・・・と期待しながら、こうして蓋を開けるんです。けれど―――・・・」
やっぱり駄目なのでしょうか。
と、俯いたまま残念そうに呟く雰囲気はとても哀しげで、放っておけば涙を溢してしまいそうで、エミリーは声をかけずにいられなかった。


