シャクジの森で〜青龍の涙〜

そんなわけで少し人数の増えた列。

がっちりと警備に囲まれたエミリーを先頭にしてぞろぞろと歩き、本館前の広場までやって来た。


そこにも、負けず劣らずな厳つい警備の塊がある。

どちらの国も、世継ぎ王子よりもこちらの方に警備を割いたよう。

中には、初日に会った常識人の爺の姿も見える。

その塊の中心から、元気な声が聞こえてきた。



「あ!来たわ!」



警備の壁を掻き分けるようにしてニコルが飛び出して来る。

淡いブルーの膝たけドレスに、ふわふわの縁飾りのあるドレスと同色の帽子。

さらさらと揺れるストレートな髪は、サイドの髪を編み込んで後ろで留めてあるようだ。

年相応の装いでとても可愛らしいニコルが、エミリーの前で丁寧に膝を折った。



「王子妃様!!おはようございます!今日はすっごく楽しみにしていたの!」

「ニコルさん、おはようございます。お待たせしてごめんなさい」

「いいの。少ししか待ってないもの。あぁっ、きゃあぁ可愛いぃっ。この猫ちゃんも一緒に行くのね?」



腕の中にいるシャルルを見つけたニコルの指が、シャルルの鼻先を優しく撫でる。

ニコルも、猫は平気らしい。



「そうなの。シャルルっていうの。それと、彼らも一緒に街まで行くことになったんですけど、いいですか?」

「え?彼らって?」



不思議そうに首を傾げるニコルに、エミリーが経緯を説明すると「もちろんいいわ!」と快諾した。

スケジュール管理はサディルの爺が務めるようで、リードから地図を受け取り薬師の住所の確認をしている。



エミリーたちは馬車に、警備は馬に、それぞれの乗り物に乗りこんで、車列はゆっくりと進んでいく。


先ずは、国一番の産業の中心地に向かった。


降り立ったエミリーの目に、とてつもなく広い敷地が飛び込んでくる。

日当たり良く風当たりも少ないこの場所は草が茂っていて、沢山の羊のような動物がのんびりと過ごしていた。



「昔はもっとこのような場所が多かったんですが、年々少なくなりまして、今はここともう一か所しかございません」



大きなエプロンをしたこれまた大きな体の牧場主が、エミリーに説明してくれる。

ここでとれたミルクを利用し、街の工場でヨーグルトやチーズを造る。

それが、この国が他国に誇れる産業の一つだと説明された。

出来た物は、ギディオンにも輸出しているとも言った。


エミリーは時たま朝食に出るおいしいヨーグルトを思い出した。

酸味が柔らかくて舌触りも滑らかなあれは、きっとここで造られたものに違いない。

けれど。



「あの・・もう一度かくにんしますけれど、この国の牧場は2か所だけなのですか?」