シャクジの森で〜青龍の涙〜

「ぃ―――っ・・・」

「あわぁぁっ!!?」



リードが慌てて支えようとするも間に合わず、アニスはその場に蹲ってしまった。

足を両手で包むその痛がり方が、普通じゃない。



「すみません。医官に診てもらいますかっ」



耳まで赤かったリードの顔も、すっかり青くなっている。

差し出した手は、アニスの背中の上をおろおろと彷徨い、どうしていいか分からないよう。



「いいえ、リードさん。平気です。このまま行きましょう。治療して頂くほどではありませんわ」



誰が見ても辛そうで、やはり診てもらいましょうと言うリードに対し、頑なに診てもらうことを拒否するアニスは、何だか切羽詰まっているように見える。

まるで、何かを急いでいるような――――



「アニスさん、ほんとうに、大丈夫なのですか?」

「失礼致します。エミリー様、そろそろ行きましょう。皆さまがお待ちです」



シリウスの落ち着いた声を耳にし、エミリーは、ぱっとひらめいた。



「・・・そうだわ!実はわたしたち、今から都街に行くんです。二人とも、歩きなのでしょう?アニスさんは足が痛そうですし、一緒に行きましょう」



どの道行かなければいけないのなら、せめて街まで送っていければいいと思った。

あの急な坂を下りていくのは、足に負担がかかりすぎる。

それに、暫く座っていれば、少しは痛みが癒えるはずなのだ。

そう。とてもいい提案だ。

けれど、アニスは首を横に振る。



「でも王子妃様、それでは迷惑をかけてしまいます。私ならば大丈夫ですから」

「ダメです。放っておけません。途中まででも、ぜひいっしょに。ご用の場所に近いところで降りればいいのですから。ね?そうしましょう。リードさん、アニスさんをおねがいします」



でも・・・と、未だ戸惑っているアニスに向かって、さらにエミリーは続けた。



「えっと。そう。これは、わたしからの命令なのです。二人とも、わかりましたか?」



アランの顔をお手本に思い浮かべ、無理矢理厳しい顔をつくるエミリー。

出された声も、いつもよりも低めだった。

けれど、慣れないことはするものじゃなく。残念なことに、全く迫力がない。

メイが小声で「エミリー様、もっとスパーンと言い放ちませんとダメですわ」と耳打ちしている。

それを見聞きしたアニスの表情が、ふわっと柔らかくなり、笑みを含んだ声に変わった。



「はい、王子妃様。ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きますわ」

「・・・全く、貴女というお方は、相変わらず強引ですね」



ブツブツと文句を言いながら、リードは、よろよろと歩くアニスを支えて列の最後尾に加わった。