据え膳――とも言うが、それだけではない、美しく魅惑的な誘惑だ。


アランは柔らかな身体を抱き上げ、ベッドに座らせた。

すると首にまわってきた腕にぎゅと力が籠り引き倒され、必然的に覆い被さる形になる。

魅惑的な顔を見つめて囁くように問う。



「・・・昼間・・あの男では、事足りなかったのか?」



確証はない。

窯を掛けたのだ。

すると、長い睫毛で縁どられた瞼がパッと見開いた。



「どうして、それを・・・?まさか、効いてないの―――?」



言ってしまったと、ハッと口を押さえるビアンカの瞳が、テーブルの方へ移動する。

思った通りだ。



「悪いが、嘘を吐く者は信用せぬと決めておる。私が愛しているのは妃だけだ。ゆえに、いくら誘惑されようが他の女性に食指は動かぬ」



例え、ワインを飲んでいたとしても。

首にまわされていたビアンカの腕が、ゆっくりと下に下ろされていった。

国同士の関わりもあるがゆえにビアンカには慎重に接してきたが、2度もあからさまに誘われればはっきりと拒絶するのが彼女の為だ。



「他国の王子に薬を盛った事実。今は、他言せず罪には問わぬ。だが、2度目はない」



そう言い置いて部屋を出た。

が、この先何をしてくるか。

矛先が違う方に向かなければ良いが。

一層に気を付けておらねば―――



やがて、アランの瞳に求める姿が映り始める。

月明かりの射す小道を、レオナルドに手を引かれて楚々と歩いてくる。

レオナルドの腕にはニコルもくっついており、彼は両手に花状態だ。

あのとき踊っていたのが彼で良かったとしみじみ思う。

レオナルドは非常識な思考の持ち主ではあるが、決してエミリーを傷付けたりしない。

たまに惑わせるようなことを口にするが、それは愛情があるゆえのことであり、あれでも彼は一つ線を引いているのだ。と、思う。

これがもしも他の男、例えば、ルドルフであったなら―――

アランの胸が言いしれぬ不安にざわつく。