「どちらに行かれるのですか!」
階段を降りていくと、警備たちの咎めるような声がした。
振り向けば、数人の警備がばらばらと走って来るのが見える。
中には、ギディオンの兵士も含まれていた。
「会場から出られては困ります!」
「貴方様は、また!エミリー様をどちらに連れていかれるつもりですか!」
騒然とし二人の行く手を阻もうとする警備たちの脚を、す・・と上げられたレオナルドの威厳ある掌が、ぴたりと止めた。
「全く、君には、何処にでも厳つい男が付いてまわるのだな。まあ、仕方がないことではあるんだが」
エミリーに向けてため息交じりにそう言った後、レオナルドは、実に邪魔だよ、と口の中で呟いた。
「大丈夫だ。少し散歩するだけだよ。こちらに居られるギディオンの王子妃殿は私が命がけで守る。君たちは、ここの警備を続けてくれ。頼むから、後を追うなど、無粋な事はしないでくれ」
穏やかにも聞こえるその声には、ルドルフに向けたものと同等の気が込められており、警備たちは黙って頭を垂れるしかない。
実際、今ここにいる皆が束になって掛かったとしても、レオナルドの方が強いのだから。
「さあ、行こう」
レオナルドの腕に引かれて一歩進むごとに、耳に届く音楽がどんどん小さくなっていく。
時折強い風が吹き、庭木の枝を大きく揺らす。
建物の隙間を通って吹き抜いてくる風が、エミリーのドレスの裾を大きくはためかせた。
昼間よりも強く吹く冷たい風は、エミリーのむき出しの肌を刺し、身体をぶるるっと震わせる。
「っ、気付かずにすまない。これを着るといい」
さっと脱いだ上着が肩にかけられ、冷えた身体がふわりとした温もりに包まれた。
背の高いレオナルドの上着は、エミリーの身体をすっぽりと覆いつくし、とてもあたたかくて、有り難い。
けれど―――
「あ、でもそれでは、レオナルドさんが寒いわ」
ベストを着ているとはいえ、シャツ1枚では彼も震えてしまう。
急いで脱ごうとするエミリーの手を盗むように取り、レオナルドはそっと指先に口づけた。
「やはり、冷たいじゃないか。いいから遠慮せずに羽織っててくれ。私は、まだ、死にたくない」
真剣な表情のレオナルドから衝撃的な言葉が飛び出し、エミリーの思考が一瞬固まってしまった。
「・・・え?・・あ、それなら、なおさら借りられないわ。お返しします」
レオナルドは、ルーベンの大事な王子様。
階段を降りていくと、警備たちの咎めるような声がした。
振り向けば、数人の警備がばらばらと走って来るのが見える。
中には、ギディオンの兵士も含まれていた。
「会場から出られては困ります!」
「貴方様は、また!エミリー様をどちらに連れていかれるつもりですか!」
騒然とし二人の行く手を阻もうとする警備たちの脚を、す・・と上げられたレオナルドの威厳ある掌が、ぴたりと止めた。
「全く、君には、何処にでも厳つい男が付いてまわるのだな。まあ、仕方がないことではあるんだが」
エミリーに向けてため息交じりにそう言った後、レオナルドは、実に邪魔だよ、と口の中で呟いた。
「大丈夫だ。少し散歩するだけだよ。こちらに居られるギディオンの王子妃殿は私が命がけで守る。君たちは、ここの警備を続けてくれ。頼むから、後を追うなど、無粋な事はしないでくれ」
穏やかにも聞こえるその声には、ルドルフに向けたものと同等の気が込められており、警備たちは黙って頭を垂れるしかない。
実際、今ここにいる皆が束になって掛かったとしても、レオナルドの方が強いのだから。
「さあ、行こう」
レオナルドの腕に引かれて一歩進むごとに、耳に届く音楽がどんどん小さくなっていく。
時折強い風が吹き、庭木の枝を大きく揺らす。
建物の隙間を通って吹き抜いてくる風が、エミリーのドレスの裾を大きくはためかせた。
昼間よりも強く吹く冷たい風は、エミリーのむき出しの肌を刺し、身体をぶるるっと震わせる。
「っ、気付かずにすまない。これを着るといい」
さっと脱いだ上着が肩にかけられ、冷えた身体がふわりとした温もりに包まれた。
背の高いレオナルドの上着は、エミリーの身体をすっぽりと覆いつくし、とてもあたたかくて、有り難い。
けれど―――
「あ、でもそれでは、レオナルドさんが寒いわ」
ベストを着ているとはいえ、シャツ1枚では彼も震えてしまう。
急いで脱ごうとするエミリーの手を盗むように取り、レオナルドはそっと指先に口づけた。
「やはり、冷たいじゃないか。いいから遠慮せずに羽織っててくれ。私は、まだ、死にたくない」
真剣な表情のレオナルドから衝撃的な言葉が飛び出し、エミリーの思考が一瞬固まってしまった。
「・・・え?・・あ、それなら、なおさら借りられないわ。お返しします」
レオナルドは、ルーベンの大事な王子様。


