シャクジの森で〜青龍の涙〜

出された声は穏やかだ。

けれど、グリーンの瞳に刃のような鈍い光を宿して、レオナルドは相手をじっと見据えていた。

ルドルフの眉が歪み、薄い唇が引き結ばれ、一歩後ろにさがる。

どうやら、力は、レオナルドの方が上のよう。



「さ、エミリー、お手をどうぞ」



宙で止まったままのエミリーの手をぎゅっと握り腰を引寄せ、レオナルドは広間の真ん中へぐいぐいと誘って行く。



「え?でも・・・あの、レオナルドさん?お約束なんて、わたし―――」

「君が、した覚えはなくとも。アランの次に踊るのは、私だと、決まってるんだよ。彼が忙しければ、当然、私が最初だ」



戸惑うしなやかな身体は、レオナルドの巧みな誘導により、いつの間にかダンスをさせられていた。

その二人の姿を、鋭く光るブルーの瞳が追いかける。



「ほら、彼も―――・・あー、あの通り、何となく渋い顔に見えなくもないが。うん、あれは、許容しているんだよ。長い付き合いの私には、分かる」

「え?ほんとうなのですか?」



エミリーがレオナルドの示す方を見ると、アランはすでに背中を向けていた。

代わりに、ビアンカと目があってしまう。

にこっと微笑みかけるエミリーに対し、目を細めて見せたビアンカは、真っ赤な唇をアランの胸に押し当て、再びエミリーの方を向き、唇を大きく歪めて笑って見せる。



「おっと。エミリー、彼女を見てはいけない。私を、見ろ」

「は・・・はい」



エミリーは、ビアンカから無理矢理視線を剥がして、レオナルドを見上げた。

なので、直後に取ったアランの行動を見られていない。

が。

レオナルドの瞳には、細い肩をガッと掴まれて、驚きの表情を浮かべているビアンカが映る。

アランに何かを言われて、困ったように眉を下げて微笑む姿も。

そして、ダンスを辞めた二人が会場の中を足早に移動して行くのを見た。

エミリーの身体を支えるレオナルドの腕に、ぐっと力が入る。



「あぁ、そうだ。エミリー、庭は散策したかい?ここには池があるんだ。ギディオンには、ないだろう?」



エミリーの気分を変えようと、話題を振ってくれるレオナルド。

優しく微笑んでくれているのだろうけど、霞んでしまって、エミリーにはよく見えない。

微笑み返そうとしても、上手く笑えない。



「・・・はい。散策は、アラン様と、しました・・・池には・・魚が、たくさん泳いでいて・・・とても、色彩豊かで、美しくて」