シャクジの森で〜青龍の涙〜

「貴方の持ってきた香薬は、全然効かなかったわ。配香士の自信作だと言ったのに。お陰で・・・」

「恥をかいた、か?そんな事は、この私が忘れさせよう。もう、黙れ―――」



男の大きな手が柔らかな膨らみをぐっと包みこみ、緩やかなカーブを描いていた薄い唇は真っ赤な唇を塞いだ。



「ん・・・はっ・・やっ・・・ん・・」



後頭部をガシッと固定し、貪るような激しい口づけが、ビアンカを襲う。

ベッドサイドで絡みあう二人の吐く息は、急速に甘く熱くなっていく。

節立った長い指が薄い布を引き裂き、ベッドの上になだれ込むようにして乗り、男は乱暴に上着を脱ぎ捨てた。

弾むクッションに連動して、露わになった滑らかな肌がふるふると揺れる。

熱の籠ったとろんとしたビアンカの瞳は、ただ真っ直ぐに男の薄い唇を見ていた。



「貴女は、非常に魅力的だ。この柔らかな胸も、弾力のある肌も。何もかも―――」



谷間に埋もれた男の出すリップ音、ギシギシと軋むベッドの音、ビアンカの出す甘く懇願するような声が、静かな部屋の中に絶え間なく響く。

花模様の可愛い香炉からは、燃え残りの煙が細く長く立ち昇っていた。

幾度も達する声を上げ、柔らかな身体はぴくんと跳ねあがる。

薔薇色に染まった肌と恍惚に濡れた瞳は美しく、男の扇情心をいや増していく。

荒い息を吐きながらも、男は、目の前の身体を何度も征服していった。


やがて、満足げな息を吐いた男が倒れるようにビアンカの横に沈んだ。

上下に動く熱い胸板のくぼみを、マニキュアを塗った細く綺麗な指先がツツツと辿る。



「・・・久しぶりですの?」

「・・・いや。これでも、不自由はしていない。だが、これを最後に、暫くは自粛するつもりだ」

「まあ、そんなことを仰って―――狙ってる娘が、いるんですの?」



男はガバッと体を起こして、再びビアンカの上に覆いかぶさった。

薄い唇がにやりと歪められる。



「あぁ。それも、強敵から奪う事になる。貴女にも、もっと頑張って頂きたい。出来るか?」

「まぁ、嬉しいこと。共同戦線を組みますのね?ならば、もっといい作戦を考えねばなりませんわ。香薬も効かないとなれば、あとは―――」

「貴女は賢い人だ」



男は高らかに笑い、再び、細い首筋に頭を埋めた。

それを、ビアンカの手がぐっと押し戻して身体を起こした。

乱れた髪を手ぐしで整えながら、ベッドに横たわる男を振りかえり見る。



「もう・・・夜の宴に差し障りますわ。それよりも・・・ね?」



ビアンカの真っ赤な唇が、大きく歪められた。