シャクジの森で〜青龍の涙〜

青い空に映える赤い屋根、美しい景観を誇るヴァンルークスの城の中。

ここは、その本館である最上階の一室。

花の絵が描かれた美しい調度品が壁際に並べられ、大きな天蓋付きのベッドが真ん中辺りに置かれている。

その傍に置かれた丸いテーブルの上には、散らばった書類とカップが二つ乗っていた。

ベッドのサイドテーブルの上には、花模様が描かれた陶器の香炉があり、そこから一筋の煙が立ち上っている。

ゆらゆらと漂うその煙は、部屋の中を異様な雰囲気に変えていた。


充満する甘い香り。

むせかえるようなその空気の中、大きな窓から外を眺める一人の女性がいた。

真っ赤なマニキュアが塗られた指先がレースのカーテンをぎゅっと握り締め、艶めく真っ赤な唇は悔しげに歪められていた。



「この私が、あのような小娘などに―――」



見れば見るほど侍女と変わらぬ品性。

あのような娘のどこがいいのか。

身体も品性も自分とは天と地ほどの差があるというのに。


燃えるような光を放つ視線の先には、仲よく歩く二人組の姿がある。

一人は銀の髪を風に揺らして歩く体躯も素晴らしい美丈夫な若者。

もう一人は、その男性に楚々と寄りそう金髪の女性。

頼りなげな風を装う女性を、男性の逞しい腕は守るように包んでいる。



「あのお方が、あのような表情をするとは」



あの、ヴァンルークスの泉のように澄んだ氷の心を持つあの方が。

騙されているのだ絶対に。

あの女性、見かけは純で大人しそうだけれど、心の中は欲にまみれているに違いない。

そう、強欲なのだ。

それを、早くわからせて差し上げなければ。

そうすれば、彼の心は、必ずこちらに、向く―――



「―――ビアンカ様」



ビアンカの細い腰まわりに、筋肉質な太い腕がまわる。

すすすと引き寄せられて、窓際から離されていくビアンカの身体。

数回のリップ音がした後に、ツルツルとした素材のローブがはらりと床に落ちた。

ビアンカの羽織っていたものだ。



「は・・・ん・・・待って」

「出来ません。そろそろ、私の相手をしてもらおう。これ以上待つには、貴女の身体は魅惑的すぎる。ここも、その気の筈だ」

「ぁ―――」



腕の中でくるりと回転されたビアンカの身体を、艶を含んだ男の瞳がじっくりと舐めるように眺める。

ビアンカが身に纏う透ける素材の白いドレスからは、柔らかな二つの稜線がはっきりと見えた。

それは、細い腰回りから足先までもすべてが。

肝心な部分にはレース模様があって隠れてはいるものの、男性を誘うには十分すぎるほどの色香たっぷりな装いだ。



「これは、素晴らしい。この欲望に負けぬとは、流石、氷の心と言うべきか」