シャクジの森で〜青龍の涙〜

アニスと会話を交わしていると、性格はメイに似ていてとても親しみやすい子だと、エミリーは思った。

それにいい考え方も教えてくれた。


―――両方。

それもいいかもしれない。

アラン様にそっくりな銀髪の男の子と、わたしに似た金髪の女の子。

そうなったら、素敵だわ―――



「出来ましたわ。少し、私の国流になってしまいましたけれど」



そう言って渡してくれた手鏡には、髪の後ろが普段と違う感じになっていた。

メイならば頭の上の方にまげを作ってくれるけれど、これは、故郷で言えば、東洋風、というのか、まげの位置が下の方にある。

だから、髪飾りの位置も、いつもより下目だ。

しっとりと大人っぽい雰囲気になっていた。

アランは、何て言ってくれるだろうか。



「ありがとう、助かりました。アラン様が戻ったら散策に行くものですから、実は、困っていたんです」

「お役に立てて私も嬉しいですわ。あ、そうですわ。散策なら、少し遠いですけれど、泉に行かれるとよろしいですわ」



手をパシンと叩いて、にっこりと笑うアニスを見て、エミリーはあの事を思い出した。

お話を聞きたいと思った、あのこと。



「それは、宿のロビーにあった絵画の、あの美しい泉ですか?」

「えぇ、通称『雪花の泉』ですわ。昔は、季節ごとに彩りを変える泉でしたけれど、今は凍りついてしまっています。けれど、夏でも溶けない泉の周りには、雪の花が年中咲いているのです。それもまた、美しいと思います。この国でしか見られないものですわ」

「雪の花―――?すてきだわ。夏でも溶けないなんて、それは、不思議ですね。是非見てみたいわ」



アニスによれば、生まれる何年も前に凍りついてしまったそう。

アニスの母親も凍てついた泉しか知らず、スヴェンの家に代々語り継がれてきた話を寝物語に聞いていたと言った。

話してくれるアニスの瞳は物憂げで、ここではないどこか遠くを見ているよう。



「昔、スヴェンの一族は、泉の傍で暮らしていたらしいんです。寝物語に聞くその泉はとても美しくて。母は話が上手で、見てきたことのように話してくれるものですから、私も、そんな錯覚を覚えることがあります。夢に出てくることもありますの」



あの、キラキラ光る美しい水面と、色鮮やかな緑の木々が。

そう語るアニスの瞳はさっきまでとは違っていて、なにか決意に満ちたような、力強さがあった。



「――――私は、いつかまた元に戻る日が来ることを願っているのですわ」



元に、戻る。

そうなるには、何かの原因がある。

アニスは、凍てついてしまった原因が分かっているのだろうか。

そう思えるような、表情だった。



「では、私は失礼致しますわ。そろそろ王子様が戻られる頃でしょうから。シャルル様、またお会い致しましょうね」



アニスは、シャルルの頭を優しく撫でたあと、膝を折って部屋から出て行った。