シャクジの森で〜青龍の涙〜

「ニャー」

「―――シャルル!と、アニスさん!」



入口に立って、ニッコリと微笑んで膝を折るアニス。



「失礼致します。王子妃様、シャルル様をお連れ致しました。到着後少し斜めだった御機嫌は、ご覧の通り、すっかり直っておりますわ」



アニスが紫の紐を外すと、シャルルはちりんちりんと鈴を鳴らしながら、嬉しげにエミリーの元まで駆け寄ってくる。

ひらり・・と膝の上に乗って、喉を鳴らしながら、さっそく丸くなった。



「おつかれさまでした。アニスさん、手数をかけました。ありがとうございます。リードさんは?」

「彼は今、部屋の外にいますわ。アラン王子様に、入るな、と命じられておりましたので」



彼は少し面白いお方ですね。

そう言ってアニスはクスクスと笑う。

指導の結果、シャルルの扱い方も少し上手になったとも教えてくれた。

だから帰途は任せても大丈夫ですわ、とも。




「―――あら?少し、髪が乱れていますわ。お直し致しましょうか」



付いてるメイドに直してもらうから大丈夫だと答えると、これでも何度も髪を結った事があるのです、お任せ下さい。と胸を叩くので、エミリーはお願いすることにした。


髪飾りが外されると、豊かな髪がふわりと広がる。



「王子妃様の髪は、柔らかくて艶やかなのですね。羨ましいですわ」



髪を梳きながら、アニスからため息交じりの声が出された。



「ありがとう。でも、わたしこそ羨ましくおもいます。アニスさんの髪の色、とてもすてきだわ。ほんのり桃色で春の花のようで・・・お国には、多い髪色なのですか?」

「いいえ、私の・・・スヴェン一族だけですわ。祖先を辿ると、母方の血統なのですけど・・・例えば黒い髪色の相手と愛を結んだとしても、生まれる子は皆、この髪色なのです。でも、スヴェンの家から出てしまうと、生まれる子は他の髪色になるのですよ、おかしいでしょう?」



お話しながらも、アニスの手は器用に動き回り、エミリーの髪が奇麗に仕上げられていく。

自信ありげに言った通り、メイがする仕事と何の遜色もない。

丁寧な身のこなしといい、どこかで似たようなお仕事をしているのだろうか。