シャクジの森で〜青龍の涙〜

レオナルドの手がエミリーの頬に、迫る。


と。



「――そこで何をしておる!」



廊下の端の方から、テノールの声が凛と響きわたった。

ウォルターとシリウスはすぐさま構えを解き、廊下の両脇にさっと移動して控えの姿勢を取った。


アランは足早にその二人の間まで来ると、手に持っていた書類をウォルターに手渡した。

レオナルドは怯む様子もなく、す・・と手を上げて笑って見せる。



「久しぶりだな、アラン」

「レオ、また君か・・・」



眉を寄せ、ため息交じりにそう言いながら、レオナルドの前で固まったように動かない華奢な身体を、そっと抱き寄せた。

が。

そうするといつも脱力してくれる身体は、すっぽりと腕に包みこんでも何故か堅いままだ。

鋭いブルーの瞳が、レオナルドを見据える。



「レオ、今、何をしておった」

「おっと。そんな怖い顔をするな、アラン」



レオナルドは、誤解だ、と言って、両掌をひらひらと振って見せた。



「彼女は、私が訊ねた折、護衛がないまま廊下に一人佇んでおられたんだ。危険だろう?私は、それをお守りしていただけだよ。それを、彼らが勘違いしたんだ」


「何を言うのです!貴方様は―――」



前に進み出るウォルターを、素早く動いたアランの手が制した。



「静かにせよ、ウォルター」

「ですが、アラン様」

「身を、わきまえよ」



悔しげに唇を引き結び、ウォルターは無言のまま脇に下がった。


アランは腕の中の身体を、くるりと回し、向き合うように変えた。

俯きがちなエミリーの顔を、覗き込むようにして見る。



「エミリー、私を見よ。彼の申すことは、まことか?」

「はい・・たしかに、わたしは一人で廊下にいました。アラン様、ごめんなさい」



そう答えると、エミリーは俯いてしまった。

アランから、甘い香りが強く漂ってくるのだ。

これは、何なのだろうか。

秘密に関係あるのだろうか。



「・・・レオ、ひとまず、礼を申しておく。だが、次は、無い」

「あぁ、分かった。覚えておくよ。さて、私は戻るよ。そろそろ、爺が血眼で探している頃だ」



レオナルドは各々の胸にいろんな思いを残し、また夜に、と言い残して去っていった。