シャクジの森で〜青龍の涙〜

振り返ったエミリーに、はあはあと息を弾ませる二人の兵士が見えた。

馴染みの顔が見えて、エミリーの表情から強張りが消えていく。



「シリウスさん・・ウォルターさんも」

「貴方様は、ルーベンのレオナルド王子様ではないですか。また何をなさるおつもりです!そのお方に簡単に手を触れて頂いては困ります!アラン様のお妃様なのです!」



ウォルターが、身構えつつジリジリと近づいていく。

シリウスも、それに倣っている。

二人の出す殺気が、再び廊下の空気を変えていく。



「あー、とうとう煩いのが来たか。―――しかし、だ。知ってるだろう、君等くらい、退けるのは簡単だと」



甘い熱を宿していたレオナルドの瞳が、威厳を放ち始める。

王子の吐く気がびりびりと二人に迫る。

ウォルターたちは額に汗を浮かべながらも、気丈にそれに立ち向かっていた。



「以前のようにはいきません。私共はエミリー様をお守りするために日々鍛練を重ねているのです」



そう、二度と、怖い目に合わせないように。

目の前で拐われないように。

ウォルターたちは腕を上げるために頑張ってきたのだ。

そう簡単に、やられはしない。



「ほう、少しは出来るようになったか。だが、私にも学習能力があってね、同じ失敗はしない。そんな怖い顔するな、今、返すよ。それに、どの道時間切れだ」



レオナルドはゆっくりと腕を解きながらエミリーに小声で囁いた。



「乱暴してすまなかった。その気になったら、何時でも訪ねてくるといい。すぐに応えるよ。私は、嘘はつかない」



その言葉を聞いて、エミリーはハッとしたように顔を上げた。



「ほんとうなのですか・・・?」



切なげに瞳を潤ませるエミリーの身体の傍で、レオナルドの手が、ぐっと拳を握りしめる。

自らが導いてしまったこととはいえ、震えながら立つ身体は、少し強めに触れれば倒れてしまいそうに脆く見える。

なんて庇護欲を掻き立てるのだろうか。



「っ、私は、君を――」