シャクジの森で〜青龍の涙〜

サンドベージュ色の髪をさらりと揺らして丁寧に挨拶をしたその子は、見た目は、シンディと同じくらいの年に見えた。

雰囲気も何となく似ている。

目がぱっちりと大きくて、ストレートの髪、とても可愛い女の子だ。


傍に、初老の男性が汗を拭きながら、頭を下げて控えている。

それに、何人かの兵らしき厳つい人も傍に付いている。



「あの、あなたは、どなたですか?」



エミリーがそう聞くと、女の子は、きゃーっと嬉しそうにはしゃいだ。

あまりの騒ぎぶりにあっけにとられていると、女の子は興奮したままに喋りはじめた。




「貴女が、アラン王子のお妃様ね?うわぁ、話に聞いていたよりも、ずっとずっと可愛いお方だわ。会いにきて良かった!だって、昨日から楽しみにしていて、夜まで待てなかったんだもの!私、ニコル・ルイーダ・サディルです。サディル国の第一王女なの。宜しくっ!あ、入ってもいいかしら?」


「お待ち下さい、王女様、それは失礼というもので御座います。アラン王子様もご不在のご様子ですし、夜会でお会いできるのですから、今は部屋に戻りましょう」




窘める初老の男性に対し、ニコルは盛大に不満の声を上げている。

その様子は幼く、見た目よりもずっと若いのかもしれないと思えた。



「かまいません・・せっかくお訪ね下さったのです。どうぞお入りください。アラン様も、もうすぐ戻るとおもいます」



エミリーが招き入れようとすると、初老の男性が首を大きく横に振ってそれを止めた。

ニコルを厳しく窘め始める。



「王女様。ここで失礼を致しましょう。アラン王子様にもご挨拶を済ませていません。なのに部屋に入るなど無礼なのです。どうか王様のお申し付けを思い出して下さい」

「もうっ、爺ったら。わかっているわ」



ムスッと口を尖らせたニコルは、納得できないといった表情をしながらも素直に頷いた。

王様の言付は、それ程に絶対的なものなのだろう。




「王子妃様、大変失礼致しました。また後ほどに改めて正式にご挨拶に伺います」

「お妃様、また後で会いましょうね!」



元気に手を振って去っていく姿を見送りながら、エミリーは、ちょっとした既視感を感じていた。

やんちゃな感じの主と、それに付き従う常識人の爺。

どこかで、似たような構図をみたような―――?




「えっと、どこでだったかしら―――?」



印象深い筈なのに、思い出せない。

ん~・・・と、頭を捻って思い出そうとしていると、後ろから、聞いたことのあるような声が聞こえてきた。




「―――到着したと聞いて、さっそく君に会いに来たんだ。御機嫌よう、エミリー」