シャクジの森で〜青龍の涙〜

シリウスとウォルターを護衛に残し、車列は馬に乗った細身の紳士に案内されていく。

アランとエミリーは、恰幅の良い紳士に案内され、城の中へと入っていった。

玄関に入り、まず最初に目に飛び込んで来たものに、エミリーは感嘆のため息を漏らした。


広い玄関ホールの奥壁にあるもの。

そこには、宿のロビーで見たような美しい泉が、壁一面に描かれていたのだ。

緑多い泉の周りに可憐な花がたくさん咲いていて、水面には光が降り注ぎ、鳥の声ややさしい水音が聞こえてきそうなほどに生き生きと描かれている。

吹き抜けの窓から入る光がスポットライトのように当たって、壁画を一層美しく見せていた。


足を止めそうになるのを促され、長い廊下を歩いていく。


一番奥にある大扉を開けると、どうぞ中へ、と言って紳士は一歩下った。

縦に長い広間の中、赤い絨毯の上をアランと二人で進んでいくと、一つだけある立派なひじ掛けの椅子には、王ではなく、美しく着飾った女性が座っていた。

両側には、大臣のような風体の男性が4人立っている。




「アラン王子殿。ようこそいらしました。貴方様には、変わらない美丈夫ぶり、まことに嬉しく思います。今年も、お会いするのを楽しみにしておりました」



静かな声が広間の中に響く。

ベージュの髪には豪華なティアラを付け、扇を持つ5本の指には大きな宝石がきらきらと輝いている。

口元を扇で隠し、青い瞳は、艶やかな色を浮かべてアランだけをじっと見つめていた。




「ビアンカ様には変わらずにご健勝で、大変喜ばしいことです。こちらは、先頃に婚儀を済ませました私の妃です。エミリー、ビアンカ様にご挨拶を」




アランの前に出るよう誘導され、エミリーはビアンカに対して丁寧に礼をした。




「こんにちは。お初にお目にかかります。エミリーと申します」




エミリー初外交の一歩目。

緊張しながらも愛らしくにこりと微笑んで見上げれば、ビアンカは瞳を細めて見下ろしていた。

それが、さっきまでとは違って少し冷やかな雰囲気がするのは、エミリーの気のせいなのだろうか。




「まあ、これは驚きました。珍しく“侍女”をお連れかと思えば、お妃様でございますか。では。ご結婚なされたというお話は本当でしたのね。それは、大変お目出度いことですわ。・・・今宵はささやかですが歓迎の宴を催します。それまでどうぞゆるりとお過ごしなさいませ」



では。とツンと言ってビアンカはドレスの裾さばきも鮮やかに、足早に退席していった。


その様子が怒っているように見え、エミリーは不安を隠せずアランを見上げた。