切り立った崖のようなところに建つ城。

辿り着くまでには、これまた切り立った崖道をのぼって行く。

背中がクッションに強く当たって、割合傾斜が強いように感じる。


窓の外が急に様変わりをしていて、エミリーはぶるっと震えてしまった。

すぐそこに、何もない空間がある。

柵もないし、木も生えていない。

それに風が強く当たって馬車はガタガタと大きく揺れている。

これだと、少しでも操作を誤ると脱輪して、まっさかさまに落ちてしまいそうだ。


ちらりと視線だけを動かせば、瞳に映るのは、左は岩の壁、右には眼下に広がる家並みの屋根。

それがどんどん小さくなっていって・・・。

いろいろ想像してしまい、エミリーは、こくん、と息をのんだ。



「・・・あ、アラン様?・・・あの?」



呼び掛ける声が震える。



「ん・・・どうした?怖いのか?ならば、こちらに寄るが良い」



アランがそう言ってくれるけれど、なんだか動いてはいけない気がして固まってしまう。




「で・・でも、アラン様・・・いいのですか?」



顔も、指一本たりとも、動かせない。

バランスを崩しそうで、余計な揺れを与えてはいけない気がするのだ。

実際には、エミリーが動いたくらいでは馬車が揺らぐことはないし、道幅も十分にあるのだけれど。


エミリーの乏しい経験から判断すると、車輪は崖ギリギリのところにあるように思えるのだ。




「もしや、動けぬのか?全く、君は・・・。まことに、面白いな」




カチコチに固まって微動だにしないその身体を、アランはスススと手元に寄せ、腕の中に収めた。

城にはすぐに着くのだが、そうせずにはいられない愛らしさだった。

固まっていたか細い身体が腕の中でふわりと脱力するのを感じ、その些細なことがアランには嬉しく思える。

知らずに口元が緩み、声が優しいものになる。




「もうすぐに着くゆえ、安心せよ」



その言葉通り、馬車の速度が弱まっていく。

窓の外には、ギディオンとは違った城壁があった。

赤い屋根付きの低いもので、城門にも屋根が付いている。

白い壁に赤い屋根。

家並みと同じ配色の城は、とてもメルヘンで可愛い。

すべて同じ色合いは、国の法律か何かで決められているのだろうか。




「ギディオン王国アラン王子様、お待ちしておりました。遠いところようこそ御出で下さいました」



恰幅のいい紳士が馬車から降り立った二人を笑顔で出迎えた。

広い玄関の前にも大きな屋根があって、雨が降っても訪れる人が濡れないような作りになっている。


まるで、ホテルのような感じだわと、エミリーは思った。



「お付きの皆さまはこちらへ―――」