力の加減を間違えば、壊れそうなほどに細い手指。

二度と離したくないし、二度と後悔をしたくない。

自分の思いを伝えるために、アランは真っ直ぐにアメジストの瞳をとらえていた。



「はい。アラン様・・・」

「で、何だ?何か聞きたいことがあるのだろう?」

「はい、えっと―――」



エミリーは少し戸惑ってしまった。

真剣な感じで改めて聞かれると、ますますちっぽけな質問に思えてしまう。

それに、アランの優しさにドキドキしてしまい、聞こうとしていたことの大半を忘れていた。



「エミリー?」

「あ・・・あの、この街は、みんなお揃いの家で、同じ飾り付けで、とてもかわいいですね。あれは、何か意味があるのですか?」



玄関にリースを飾るなんて、故郷のクリスマスに感じが似ている。

何かのお祝いなのだろうか。



「あぁ、あの飾りのことか?・・・あれは、この時期にある風凪ぎ祭の飾り付けだ。他国のことゆえ私も詳しく知らないが、あれを飾ることにより、風の神に花咲く季節の到来を知らせる意味があるらしい」

「そうなのですか。すてきだわ」



新たな季節の到来を知らせる、春祭―――


そう。お祭りといえば。

ギディオンの月祭りが思い出された。

兵士長官パトリックの妹であるシンディが巫女になって、舞いを舞ったあのお祭り。

あれは一つの儀式みたいなものだった。

リンク王が願いを叶えるために始めたお祭りだった。

エミリーは途中で意識を失ってしまったけれど、とても幻想的だったことを覚えていた。


故郷の世界では、トマトを投げ合ったり、牛に追いかけられたり、日頃のうっぷんを晴らすような、おかしな祭りがたくさんある。



―――この世界にも、あんな過激なお祭りがあるのかしら。

音の響きからは、そんな感じはしないけれど。

春の季節を知らせる、風凪ぎ祭。

どんな祭りなのかしら。



「祭りは、もうすぐなのですか?」

「私も見たことがない。昨年までは、用が済めばすぐに帰国していたゆえ・・・だが・・・今年は、そうだな。滞在中にあれば、見られるだろうな」




エミリーが故郷の世界のお祭りのことを少し話すと、アランは首を傾げて聞いていた。




「それは、楽しいのか?」



と、訝しげな表情。

きっと、想像も出来ないのだろうと思える。


いろいろ話しているうちに、馬車は、いつしかヴァンルークスの城に近付いていた。