翌朝。

宿を出たギディオンの車列は、ヴァンルークスの都街に向かっていた。

遠くに見える高い山の頂は、朝日を受けた雪がチカチカと光っている。今日も、いい天気だ。


馬車の窓からは、白い壁に赤い屋根の可愛らしい家並みが見える。

みんな同じ形で窓枠が黒っぽくて、お揃いのような家々。


そのどの家の玄関扉にもドライフラワーのリースが飾られている。

大きめな屋敷には門にも飾られていて、それのどの飾りにも、大きさは違えど同じ模様のオーナメントが付けられていた。


通りすぎざまによく見てみると、雪の結晶のような形をしていた。

それは、金属の板で出来ているようで、朝の柔らかな日に当たって七色にきらきらと輝いている。

それを見て、エミリーはへんてこ館長のキラキラ光る四角の飾りを思い出した。

彼も、ヴァンルークスの出身なのだ。

きっと、あれと同じ素材なのに違いない。




「―――アラン様?」



いろいろ聞こうとしてパッと隣を見たアメジストの瞳に、腕を組んでるアランの姿が映る。

瞳を閉じてて、とても難しい顔つきをしている。

馬車の中でのアランは、オアシスを出てからずっとこんな感じだ。

秩序のない荒野では警戒していたと考えられるけれど、国に入っても同じだなんて―――



「ぁ・・・」



エミリーは、開きかけた口を閉じた。

アランは自分とは違って、政治的な目的が中心でこの国に来ているのだ。

きっと、頭の中はそのことでいっぱいなのだろうと思えた。




「・・ん、エミリー、何だ?」

「あ、えっと・・なんでも・・・ごめんなさい、呼んだだけです。なんでもないんです。気にしないでください」




腕を組んだまま問いかけてきたアランにそう伝え、エミリーは再び窓の外を見た。

ちょっぴり気持ちが沈んでしまったけれど、大切な思考の邪魔をしてはいけないと思う。

アランが抱えてる責任に比べれば、エミリーの質問なんて、くだらないとても小さなことなのだから。


すると、膝に置いていた手が、ぬくもりにすっぽりと包まれた。

と同時に、頬にも掌が当てられる。




「すまない、エミリー。こちらを向いてくれるか」



優しく誘導してくるその手に従ってみると、アランの表情はいつものに変わっていた。




「良いか、エミリー。以前より申しておる筈だぞ。どの様な時でも、君の声だけは私に届く、と。ゆえに、私が何をしておろうが、どんな些細なことでも遠慮せず申して欲しい。私は、決して無視はせぬ」




今も、これからも。

そう言ってアランは、小さな手をぎゅっと握った。