背後から伸びてきた腕に、すっぽりと抱きすくめられた。



「私が外す。そのままでおれ」



色の含まれた声。

耳元で囁くように言われ、エミリーの手は下に下ろされた。

くるんと体の向きを変えられ、アランの逞しい胸がエミリーの目に入る。


何て素早いのだろう。もう、脱いでしまっていた。

目のやり場に困りつつじっと立っていると、一つ一つアクセサリーが外されていった。

最後に大きな髪留めを外すと、豊かな髪がふわりと広がる。

その髪を、アランは丁寧に梳く。


熱を持ったブルーの瞳が、ゆっくりとエミリーの体の輪郭をなでる。

男の、アランだ。



「二人で湯に入るのは、初めてだな?」

「・・・はい・・アラン様」



顎を支えられて唇が塞がれ、溢れんばかりの熱い熱を伝えられながら、背中の金具が外されていくのを感じていた。

ドレスがぱさ・・と下に落ち下着も取られると、一糸纏わぬ身体は軽々と宙に浮いた。



「きゃっ・・・」



首にしがみついて、ドキドキしながら見上げれば、柔らかな微笑みが降ってくる。



「床が滑るゆえ・・戸を開けてくれるか」

「はい・・・」



言われるままにすると、湯けむりがもうもうとけむる広い湯殿が目に入った。

アランは、すたすたとそれを通りすぎていく。

湯気にくもる硝子戸も、言われるままに開けると、そこは外だった。

冷たい空気がエミリーの肌を刺し、ぶるっと震える。



「アラン様?ここは・・・」

「ん、今少し我慢してくれるか」



木立に囲まれた石段を何段か下りると、石造りの池のような湯船があった。


ちゃぽん・・と湯に入ると、エミリーの身体はアランの腕の中から解放された。




「アラン様・・とても、きれい・・・」



エミリーの唇から、ため息交じりの声が漏れる。

切り立った崖の上に作られていた湯船からは、眼下には窓から見た夜景が広がり、見上げれば降るような星空があった。

窓からは見えなかった、星の川のような筋もあるのがわかり、エミリーは首が痛くなるまで空を見上げていた。




「毎年この宿に来ておるが、こちらの湯に入るのは初めてだ・・・良いものだな」

「はい。わたし、とてもしあわせです」



星空と夜景から目を離せば、艶を含んだブルーの瞳は、ただ真っ直ぐにエミリーを見つめていた。



「あ・・・」

「景色はもう十分に楽しみ・・・この身体も、十分、あたたまったな?」



くいっと引き寄せられ、湯の中を泳ぐように引き寄せられた柔らかな身体は腕の中に収められ、そのままふっくらとした唇は塞がれた。


星が瞬く空の下、二人の熱い熱い夜は、更けてゆく―――